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第373話

里香がふっと言った。「かおる、もう彼のこと好きじゃないの」

かおるはさらに雅之を批判しようとしたが、その言葉を聞いて動きを止めた。

「えっ、里香ちゃん?」

里香は少し笑いながら肩をすくめた。「もう好きじゃないから、彼が何してようが、誰と一緒にいようが、私には関係ないのよ」

かおるは慎重に声を落として言った。「本当に?本当にもう雅之のこと好きじゃないの?」

かおるは、初めて雅之を見たときの里香の目を思い出していた。あの時、彼女の目は愛情で輝いていた。それが、雅之が記憶を取り戻してからは、もう二度とその輝きは戻らなかった。

里香は軽く頷いて、「とりあえず、起きて準備するね」と言った。

かおるも「うん」と応えたが、どこか乾いた声だった。

電話を切った。

しばらくベッドに横たわっていた里香は、突然スマホを手に取って祐介に電話をかけた。

「もしもし、里香?」

すぐに繋がり、祐介の穏やかな笑い声が聞こえた。

里香は尋ねた。「祐介兄ちゃん、信頼できる探偵知らない?」

祐介は雅之のホテル騒動を知っていたので、里香の問いに少し眉を上げた。「知ってるよ。すぐに連絡させる」

里香は「ありがとう」と感謝した。

祐介は軽く笑って、「気にすんな。里香が頼ってくれるのが嬉しいよ」と言った。

里香は微笑んで、「いつ帰ってくるの?」と聞いた。

「まだ分かんないな。今は忙しくてさ。でも、ほとんど大丈夫だから心配しないで」

「そっか、それなら良かった」

軽く会話を交わし、里香は電話を切った。起き上がり身支度をして、階下に降りた。

ちょうど執事がキッチンから出てきて、「奥様、朝食の準備ができました」と告げた。

「うん」

淡々とうなずき、食堂に向かい、食事を始めた。

そのとき、外から何か物音が聞こえてきた。

使用人が挨拶している。「旦那様、お帰りなさいませ」

「うん」

雅之は冷たく返事をし、そのまま食堂に入ってきた。里香がゆっくりとお粥をすすっている姿を見て、彼の目つきが鋭く暗くなった。無造作に椅子を引いて座り、彼女をじっと睨んだ。

「何か言うことは?」

里香は無視しようとしたが、彼の冷たい視線が背筋を凍らせた。

雅之は低く冷たい声で言った。「僕に何か言いたいことがあるんじゃないか?」

里香は少し首をかしげ、無表情で「別にないわよ」と応えた。

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