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第261話

里香はスマホを置き、雅之を見つめて言った。「特産品を買うのは、さすがに私の仕事じゃないでしょ?」

雅之は静かに言った。「特産品を食べたら、僕の回復が早くなるかもしれない」

里香:「......」

里香は立ち上がり、「わかったわよ。でも、買ってきたら絶対に食べてもらうからね!」と言い捨て、怒りに満ちた足取りで部屋を出て行った。

雅之は里香の背中を見つめながら、イライラした気分に包まれ、ネクタイを引っ張って胸の奥に溜まった鬱屈した感情を吐き出そうとした。

以前はこんな風じゃなかったのに。この一年間、二人で過ごした時間は、確かに楽しかったはずだ。

雅之は目を閉じ、静かにため息をついた。

里香は買い物を素早く済ませ、一時間ほどで戻ってきた。

里香は安江町の特産品を雅之の前に並べ、顎を少し上げて「さあ、食べなさいよ」言った。

雅之のこめかみの血管がピクピクと跳ねた。

「お前、わざとだろ?」

里香は真剣な顔で答えた。「これが安江町の特産品よ。見て、この五彩紐、綺麗でしょ?それにこの団扇、両面刺繍が施されていて、国の無形文化遺産なんだから。安江町の特産品が欲しいって言ったから、ちゃんと持ってきたんじゃない」

里香は椅子を引いて雅之の前に座り、「あなたの言った通りにしたのよ。もし文句があるなら、それはあなたが理不尽なだけよ」と言い放った。

雅之は冷たい目で里香を睨んでいた。

しかし、里香の気分は最高だった。雅之が困っている姿を見るのは、何とも言えない快感だった。

その時、雅之のスマートフォンが鳴り響いた。雅之は画面を見て一瞬眉をひそめたが、すぐに電話に出た。「もしもし、夏実ちゃん?」

里香の笑顔は瞬時に消えた。

なんてツイてないんだ!せっかくの良い気分が一気に台無しになった。

電話の向こうから、夏実の優しい声が聞こえた。「まだ安江町にいるの?」

「うん」と、雅之は淡々と答えた。

夏実は続けた。「いつ戻ってくるの?会えなくて寂しいわ」

雅之は「こっちの仕事が終わったら帰る」と答えた。

夏実は「それなら、そっちに行ってもいい?久しぶりに会いたいの」と甘い声で言った。

雅之の視線は里香の顔に向けられた。里香は無表情で、まるで雅之が他の女性と話していることなど気にしていないようだった。最初は夏実の提案に応じるつもりだったが、言葉が口をつく直前に
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