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第269話

「はい」桜井はすぐに頷き、振り返って指示を出しに行った。

「優花を一ヶ月閉じ込める」と言った錦に、雅之がそれ以上追及しなかったのは、ダイヤモンド鉱山の件を踏まえてのことだ。

それなのに、まだ数日しか経ってないのに、優花がもう外に出されてるなんて。娘の教育を怠るなら、そのツケは自分で払わせるしかない。

里香は雅之に一杯の水を差し出し、前に置いてさっとその場を離れようとした。

「何か言いたいことはないのか?」雅之は里香をじっと見つめて聞いた。

里香は淡々とした表情で答えた。「あなたのやり方は間違ってないわ。だから、特に言うことはない」

その言葉に、雅之の沈んでいた気持ちは少し晴れた。以前なら、里香は間違いなく鼻で笑っていたはずだ。もしかして、彼女の心はまた少し開いてくれたのか?

そんなことを考えながら、雅之はふいに里香の手を掴んでグッと引き寄せた。

「何してるの?」里香は眉をひそめて問い詰めた。

雅之の鋭い視線が里香に注がれ、そのまま少しずつ下がっていく。そして身を傾け、里香にキスをしようとした。

「バカじゃないの!」

里香はすぐに雅之を押し返し、そのまま立ち上がって寝室へ戻っていった。

ただ水を一杯渡しただけで、なんでいきなり発情するわけ?この男、完全に頭おかしいんじゃない?

雅之は少し呆然としたまま、空っぽになった手を見つめた。さっきの里香の嫌悪に満ちた顔が頭から離れない。雅之は薄い唇をきつく結んだ。

考えすぎだったのか?まあ、どうでもいい。里香がまだ側にいる限り、いつか心を動かせるはずだ。

雅之は水を一口飲み、コップをテーブルに重く置いた。

雅之の傷は回復が早く、半月も経たないうちにほぼ完治していたが、それでもまだ定期的な注射が必要だった。

病院から出て車に乗り込むと、里香が口を開いた。「もう治ったんだから、私、帰っていい?」

雅之は手に持っていた書類をめくりながら、冷たく答えた。「どこに帰るんだ?」

「冬木に帰るの」

いや、違う。里香は他の街に行くつもりだろう。自分が見つけられないような場所に。

雅之は書類から目を離し、里香の顔に視線を移した。そして、唇の端がわずかに持ち上がる。「信用できないな」

「信じるかどうかはあなたの勝手だけど、元々の約束でしょ?あなたが完全に治るまで面倒見るって」

「僕、完全に治ったか?」雅
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