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第270話

車が翡翠居 (ひすいきょ)の前で止まったが、雅之は降りず、里香だけが車を降りた。

車が去っていくのを見送りながら、里香は一息ついて、すぐにスーパーの方へ歩き出した。今夜の夕飯の食材を買いに行くためだ。

これが最後の夕飯になる。今日が終われば、自由になれる。そのことを考えると、自然と嬉しくなってきた。

スーパーで食材を買い、レシートを雅之に送信。雅之からの振り込みを確認すると、唇の端を少し上げ、食材を提げて翡翠居 (ひすいきょ)に向かって歩き出した。

しかし、交差点を通りかかった瞬間、突然二人組が飛び出してきて、里香を引きずり込んだ。反応する間もなく、里香はすぐに意識を失ってしまった。

その時、少し離れた場所から一つの素早い影が猛然と駆け寄ってきた。

二人組は里香を車に押し込んで、「今回の任務、楽勝だな」と思っていたが、次の瞬間、二人とも頭に強烈な一撃を食らった。その一撃は非常に重く、二人はその場で気絶してしまった。

東雲は服を整え、スマホを取り出して二人組の写真を撮り、それを聡に送信した。ようやく車内の里香に目を向けた。

里香はすでに意識を失っている。

東雲は眉をひそめ、まずは地面に散らばった食材を拾い集めた後、里香を抱き上げて翡翠居 (ひすいきょ)へと歩き出した。

フロントの女性がその光景を見て、すぐに駆け寄ってきて尋ねた。「小松さん、大丈夫ですか?」

東雲は「医者を呼んでくれ。彼女は麻酔薬をかがされた」と答えた。

フロントの女性は頷き、すぐに救急車を呼んだ。

東雲はしばらく迷ったが、やはり桜井に電話をかけることにした。

その頃、別の場所。

海辺のリゾート地で、何人かの役人たちが雅之に視察を案内していた。そこへ桜井が近づき、雅之の耳元に何かを囁いた。

雅之の顔は瞬時に険しくなり、役人たちに向かって「急用ができたので、今日はここで失礼します」と言った。

そう言い終わると、雅之はすぐにその場を去った。

副町長が慌てて尋ねた。「二宮さん、何か問題が? 我々でお手伝いできることがあれば」

雅之は「必要ならお知らせします」とだけ答え、車に乗り込み、桜井が運転してその場を後にした。

病院で里香が朦朧と目を覚ました時、目に飛び込んできたのは真っ白な天井で、鼻には消毒液の匂いが漂っていた。

記憶は自分が路地に引きずり込まれ、意識を失った瞬
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