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第272話

「今回は本当に危なかったですよ。幸い、雅之さんが事前に東雲をあなたの護衛に付けてくれたおかげで助かりました。もしそうじゃなかったら、どうなっていたか......」と、桜井が言った。

その言葉に、里香は一瞬驚いた。雅之が東雲を自分の護衛に?でも東雲だって、いつ自分を殺さないとも限らない。

ついこの間も、無理やり夏実さんに頭を下げさせられたばかりなのに、その嫌な記憶はまだ鮮明だった。

東雲は里香の視線を避けるように、まるで悪いことをした子供みたいにうつむいて立っていた。

桜井はすぐに場の空気を察して、話題を変えた。「小松さん、私が送っていきますから、安心してください。雅之さんがきっと黒幕を突き止めて、ちゃんと説明してくれるはずです」

里香は軽く頷いたが、心の中は複雑なままだった。

桜井は里香を翡翠居 (ひすいきょ)まで送り届けた。病院を出た後、東雲はすぐに姿を消し、どうやらまた陰から護衛に戻ったようだ。

里香はそれに特に感情を抱くこともなく、ただ受け入れた。

翡翠居 (ひすいきょ)に到着すると、桜井は部屋の前まで送ってくれ、去る前に「ホテルの方に頼んで食事を用意しておきましたので、後で届くと思います。寝る前に食べてくださいね」と言った。

「はい、ありがとうございます」里香は軽く頭を下げた。

桜井は微笑んで、「そんなに気を使わなくていいですよ。何かあれば、いつでも僕に言ってくださいね」と言った。

「分かりました」そう言って里香は部屋に戻った。

部屋は毎日清掃が入っているはずなのに、まだ雅之のあの独特な清涼感のある香りが空気に残っていた。

里香の気分は沈んだままで、ソファに腰を下ろし、スマホを手に取ってかおるに電話をかけようとしたところ、ちょうどかおるから電話がかかってきた。

迷わず電話に出ると、「かおる......」と呼びかけた。

「里香ちゃん、聞いてよ、私、本当に運が悪すぎる! 今どこにいるか分かる? 砂漠よ、砂漠!ふざけてるでしょ? 月宮の新しい映画の撮影地が砂漠だって! もう、信じられない!」

里香が何か言う間もなく、かおるは怒りと不満をぶちまけ始めた。

「ちょっと待って......」里香はかおるを遮り、「月宮はもう回復したんでしょ?それなのに、どうしてまだ一緒にいるの?」

かおるは少し戸惑ったように、「それがね、話すと長くなるん
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