共有

第220話

幸子はずっと里香をけなしていたが、その一方で、里香が奢る料理をガツガツ食べ続けていた。そんな彼女を見て、里香は呆れた表情を浮かべた。

ようやく幸子が満腹になったのか、げっぷをしながら立ち上がり、「ちょっとトイレに行ってくるわ」と言った。

里香も箸を置き、彼女が戻ってきたら何の「物」について話しているのか問いただすつもりだった。

しかし、30分経っても幸子は戻ってこなかった。里香は眉をひそめ、スマホを取り出して幸子に電話をかけたが、応答はなかった。

里香の顔が一瞬冷たくなった。

その時、個室のドアが「バン!」と勢いよく開き、横柄そうな若い男が入ってきた。

男は革ジャンを着ていて、やんちゃな雰囲気を漂わせていた。里香を見ると、男は目を輝かせた。

「久しぶりだな。まさかこんなにべっぴんになってるとはな!」

里香はすぐに立ち上がり、警戒の目を向けた。

前田健一だ。

安江町の町長の息子で、安江町ではやりたい放題。評判は最悪だ。

5年前、里香が大学の合格通知を受け取った夜、幸子は祝うと言って彼女を食事に連れて行った。しかし、その料理には薬が仕込まれていて、意識を失った里香は前田のベッドに送られた。

その時、里香は瓶を割って自分の太ももを刺し、痛みで意識を保った。そして、前田が襲いかかってきた瞬間、酒瓶で彼の頭を殴りつけ、彼を気絶させた。里香はその夜、安江町を逃げ出した。

5年経った今、また彼と遭遇するなんて!

いや、これは「遭遇」じゃない。前田がどうしてこの個室にいるのか?そして、幸子がなぜ戻ってこないのか?その答えはもう明らかだった。

里香の顔はますます冷たくなった。幸子はまた自分を前田に売り渡そうとしているのだ。

前田はドアを閉め、手をこすりながら言った。「あの時、俺を殴ったこと、まだ清算してないんだぜ。よくもまた戻ってきやがったな。どうせ外でうまくいかなかったんだろ?」

前田は一歩一歩里香に近づき、いやらしい目で見つめながら言った。「あの時、俺に付いてきてれば良かったのにな。そうすれば、うまいもん食って、いい暮らしできたのに!」

里香はテーブルの上を見たが、酒瓶はなかった。彼女はすぐにテーブルの反対側に回り込み、警戒しながら前田を見据えた。「まだ痛みを忘れたの?もう一度頭を割られたいの?」

前田は笑い出し、「おい、ここに来て殴ってみろ
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status