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第223話

「声を上げないで!」

男の低くて魅力的な声が響き渡り、里香の動きが一瞬止まった。

雅之だ!

不思議なことに、心の中の恐怖が急に消え去り、里香は抵抗するのをやめた。ただ、呼吸はまだ少し荒くて、恐怖のせいで体が微かに震えていた。

雅之は里香の口を離し、薄暗い照明の中でその鋭く美しい顔が冷たい表情を浮かべた。「俺が退職を許可したか?今の君は無断欠勤だぞ」

里香は長いまつげを微かに震わせ、「それなら、給料を差し引けばいいでしょ」と言った。

雅之の顔色が一気に険しくなり、里香の首を掴んで無理やり見上げさせた。「なんでマンションを売ったんだ?」

この体勢が里香にはどうしても気に入らなかった。手を伸ばして雅之を押しのけようとしたが、彼の力が強すぎてびくともしない。

「それは私のものよ。どう扱うかは私の自由でしょ。あなたに何の関係があるの?」

里香は冷たく言い放った。

もし雅之が安江町に投資に来ると知っていたら、絶対にすぐには戻らなかったのに。もっと外で遊びたかったのに、今じゃ遊ぶ気分も失せてしまった。

里香の澄んだ瞳に浮かぶ冷たさがあまりにも刺々しく、雅之の胸の中で燃え上がる怒りの炎は、どこにもぶつけることができなかった。

ずっと里香に連絡を取ろうとしていたのに、彼女は一切応じず、挙句の果てには自分をブロックした。

雅之がここに現れても、里香は一瞥もくれない。どうしてそんなことができるんだ!

雅之はさらに力を込めて言った。「俺たちはまだ離婚してない。婚姻中の財産を勝手に処分するには、俺の同意が必要だ」

その瞬間、里香は怒りに満ち、雅之を乱暴に殴り、蹴り始めた。

「あんた、頭おかしいんじゃない?まだ離婚してないって自覚してるなら、あんたが浮気したことも追及するべきなんじゃないの?私の目の前で夏実と結婚するって言った時、私たちがまだ離婚してないことを考えた?」

「クズ男がここまでひどいなんて、まったく.......」

里香が言い終わる前に、突然雅之にキスされた。

熱い息が里香を包み込み、雅之の清涼な香りが体中に染み込んできた。雅之の大きな体が里香を壁に押し付け、抵抗することすらできなくなった。

「んっ!」

里香は雅之にキスされたくなくて、頭を左右に振りながら必死に抵抗した。

しかし、雅之は里香の後頭部を押さえ、キスはますます激しく荒々しくな
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