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第226話

「大丈夫」

里香は淡々とした口調で言った。「5年前のことはもう気にしてないわ。院長が私を育ててくれたから。でも、あの夜でその恩はもう返し終わった。だけど、今回は見逃さない。院長がやったことには責任が伴う。もし何もしていないなら、当然釈放されるわ」

哲也は沈黙した。

里香はティッシュを取り出して口元を拭きながら言った。「哲也、忠告しておくわ。安江町を出て外の世界で挑戦してみたらどう?まだ若いんだから、ここにいると自分の可能性を無駄にするだけよ」

哲也は「分かった、考えてみる」と言った。

電話を切ると、里香はそのままホテルに戻った。警察署に行って自分の身元について調べるのは、もう少し後にしようと思っていた。

まずは、幸子に少し苦労を味わわせてやる必要がある。

そして、雅之を避けるため、里香は数日間外に出なかった。

そんなある朝、祐介から電話がかかってきた。

「まさか約束を忘れてないよね?」祐介は笑いながら言った。

里香は一瞬戸惑い、水を飲む手が止まった。

里香が何も言わないのを見て、祐介はため息をつきながら言った。「今夜、パーティーがあるんだよ。前に君、俺と一緒に行くって約束してくれたじゃないか。本当に忘れたの?」

里香は急に焦りを感じた。

本当に忘れてた!

「ごめんなさい、祐介さん!今すぐチケットを取って戻るわ。パーティーまでには間に合うと思うけど、どう?」

里香はそう言いながら、急いでチケット予約のアプリを開いた。

祐介はまたため息をつき、「間に合うよ。でも、そんなに焦らなくていい。フライト情報を教えてくれれば、俺が迎えに行って、そのままパーティー会場に向かおう」と言った。

「分かった」

里香はそう答え、電話を切った。

すぐに服を着替え、荷物をまとめてホテルを出発し、バスステーションへ向かった。

安江町から市内まではバスで2時間、そこから飛行機で3時間。まあ、大丈夫そうだ。

飛行機に乗ると、里香はすぐに祐介にフライト情報を送った。彼からは「OK」の返信が来た。

里香は少し安心し、窓の外を見つめた。

帰る頃には、雅之がもういなくなっているといいけど…。

......

豪華な大統領スイートルームの中で。

桜井が部屋に入ってきて言った。「社長、北村の旦那の誕生日に招待状が届きました」

冬木の北村家は名門の家柄で、
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