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第233話

「蘭」

その時、祐介の声が響いた。「今夜はお前のおじいさんの誕生日だ。来ている人も多いし、誰かが外に出て一息ついているかもしれない。気にしなくていい」

蘭は花亭の回廊の方を一瞥し、少し迷ったが、祐介の言う通りにして戻ることにした。

「祐介さん、あの女の人って誰?どうして一緒に来たの?」

蘭の声はだんだん遠ざかっていった。

里香はようやく体の緊張を解き、雅之を強く押しのけると、そのまま宴会場へと走り出した。

里香の姿が明るい光の中に消えていくのを見ながら、雅之は一度垂れた目で自分の指を見つめた。そこにはまだ水滴が残っていた。

雅之の目は暗くなり、喉元がごくりとに上下する。彼は蘭と祐介の方を一瞥すると、その場を後にした。

里香はそのまま洗面所に入り、冷水で顔を洗い、気持ちを落ち着けた。

さっきの出来事を思い出すと、里香は雅之を殴るほど怒りがこみ上げてきたが、当然、力では彼に勝てるわけがない。

あの男、ほんとにひどい!

里香が出てきた頃には、蘭のおじいさんがすでに階下に降りてきていて、客たちは皆、北村おじいさんを迎えに行っていた。北村家の人たちは次々とお祝いの言葉を述べていた。

里香は隅の方に立ち、できるだけ目立たないようにしていた。

その時、祐介が近づいてきて、その魅惑的な目が彼女を一度眺めると、「この後、どこで休むつもり?」と尋ねた。

宴会はもうすぐ終わりそうだった。

「家に帰るわ」と里香が答えると、祐介は軽く頷いて、「分かった。後で送るよ」と言った。

里香は断ろうと思ったが、ふと自分が着ているドレスが祐介からもらったものだと思い出し、「このドレス、洗って返すね」と言った。

祐介は意味ありげな笑みを浮かべて里香を見つめた。「返してどうする?誰に着せるんだ?」

里香は一瞬驚いた。

祐介は続けて言った。「俺、女装趣味はないからさ。このドレスはお前にぴったりだし、そのまま持ってていいよ」

里香は「でも、それはちょっと......値段を教えてくれたら、私が働いて返すよ」と言い返した。

祐介はため息をついて、「そんなに気を使わなくていいんだよ」

里香はそれでも気が引けていた。このドレスは一目で高価なものだと分かる。

祐介は「もういいよ。ドレスのことは気にするな。ただの服だし。元々は何の意味もなかったけど、お前が着たことで意味が生ま
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