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第240話

雅之はじっと里香を見つめていた。彼女に初めて出会った時の道路監視カメラの映像を何度も確認してきたが、里香が自分の正体を知っていたのかどうか、今でもはっきりしない。

もし知っていたのなら、里香の策略は相当深い。1年も一緒に過ごしていたのに、雅之は全く気づかなかったことになる。

でも、もし知らなかったのなら......それ以上考えるのが怖かったし、簡単には信じられなかった。

雅之の鋭い目の奥に、一瞬微かな光がよぎった。

その時、冷たい風が突然吹き抜け、里香は身震いして雅之の胸に飛び込んできた。「まさくん、寒いよ、抱きしめて」

心の中で張り詰めていた弦は彼を不快にさせていたが、今の里香を見ていると冷静になれなかった。

結局、雅之は里香の優しさと従順さに甘えてしまっているのだ。

雅之は思考を切り替え、里香をしっかり抱きしめ、その温もりを感じながら目の色はさらに暗くなった。

「二宮さん」

その時、副町長が近づいてきた。雅之が女性を抱きしめている姿を見て、一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻した。

「今夜はここに泊まるのか、それともに戻るのか?」

副町長は小声で尋ねた。

雅之は「に戻る」と答えた。

ここでの宿泊環境はほど良くない。雅之はそういうところにこだわりがある。

副町長は頷き、視線を里香に向けた瞬間、驚きを隠せなかった。

この女性は、昨夜自分の息子が手に入れようとしていた子ではないか?あの時、里香が彼らの個室に入ってきた。その時彼は「雅之を喜ばせれば、息子が困らせることはない」と条件を出したのだ。

まさか、こんなに早く雅之を手に入れるとは......!この女性のやり方は並外れている。

副町長の目に一瞬の軽蔑が浮かんだが、すぐに感情を抑え、黙ってその場を去った。

里香は目を閉じて、まるで眠っているようだった。

雅之は里香をそのまま横抱きにし、遠くに停まっている車へと歩き出した。桜井はすでに車のドアの横で待機していた。

二人が近づくと、桜井は恭しくドアを開けた。

雅之は里香を車にそっと乗せ、自分も反対側から車に乗り込んだ。その間、雅之は終始慎重に行動していた。

その様子を見ていた桜井は、少し安堵した。「ついに、社長も奥さんを大切にするようになったんだな」と。

車は静かに出発した。

道中、車内は静寂に包まれていた。

雅之の視線は時折
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