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第239話

哲也は目を見開き、信じられない様子で二人を見つめ、「お、お前たち......」と声を震わせた。

雅之は里香の唇の端に軽くキスをして、「いい子だ、里香ちゃん。彼に教えてあげて、僕が誰か」と言った。

里香は今、ただ雅之の顔を見つめていた。まるで雅之から受けた傷なんて忘れてしまったかのように、「まさくん」だけを覚えていた。

「私の旦那さま......」

里香は甘く柔らかい声で呟いた。

雅之は満足げに口元を上げ、哲也を見上げて、「まだここにいるつもりか?僕たち夫婦の仲睦まじいところを見たいのか?」と冷たく言った。

哲也はまるで雷に打たれたかのような表情を浮かべていた。

里香の旦那さま?里香は結婚してたのか?まさか、あの里香が結婚してたなんて!でも、さっき「彼氏はいない」って言ってたじゃないか。

哲也は衝撃を受け、雅之の腕の中にいる里香を見つめながら、裏切られたような気持ちになった。

結婚してるなら、もっと早く教えてくれればいいのに。感情を無駄にしたことに腹が立ち、哲也はそのまま背を向けて去っていった。

雅之は哲也の表情の変化を見逃さず、目に一瞬の嘲笑が浮かんだ。そして再び視線を里香の顔に戻した。

酒が回ってきたのか、里香の白い頬は赤く染まり、澄んだ美しい杏のような瞳はうるうると潤んでいて、無邪気でありながらもどこか誘惑的だった。

「まさくん......」

彼女は彼の名前を呟き、突然彼の顔を両手で包み込み、軽くキスをした。

「前のことは全部夢だよね?あなたは二宮家の三男でも、DKグループの社長でもない、私以外に好きな女の子もいない、そうでしょ?」

里香は酔っているにも関わらず、真剣な表情で雅之を見つめていた。

なぜか雅之の喉が詰まり、心が沈んでいくのを感じた。

雅之は里香を抱きしめ、低い声で「僕がDKグループの社長じゃダメか?もっと大きな家に住ませてあげられるんだぞ」と尋ねた。

「ダメ、絶対ダメ!」

里香は首を横に振り、まるででんでん太鼓のように。

「あなたがDKグループの社長になったら、夏実が現れるし、私と離婚することになるじゃない。でも、離婚したくない......」

里香はそう言いながら、声がだんだんと沈んでいった。

里香がこんなに甘えた様子を見せるのは、雅之にとって本当に久しぶりだった。その姿は彼の心の奥深くに突き刺さった。

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