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第228話

宴会場は7階にあり、エレベーターのドアが開くと、祐介と里香は歩き出た。

祐介が喜多野家に認められて戻ったことで、彼を知っている人たちが次々と挨拶にやってきて、軽く言葉を交わしていた。

里香はただ静かにそばに立ち、まるでオブジェクトのようにその場をやり過ごしていた。

その時、突然冷たい気配が里香の背中を覆った。里香は一瞬動きを止め、無意識に振り返った。

そして、少し離れた場所にいる人物を見て、瞳孔が一瞬で縮んだ。

雅之!どうして彼がここにいるの?

里香は反射的に祐介の腕を掴んだ。祐介は彼女を見て、少し近づきながら「どうした?」と尋ねた。

「なんでもない」

里香は長いまつげを震わせ、必死に感情を抑えようとした。

祐介は里香の様子が少しおかしいことに気づき、「もし具合が悪いなら、あっちに行って休んでいいよ。あそこはビュッフェコーナーで、何でも揃ってるから」と提案した。

里香は笑顔で首を振り、「大丈夫、祐介兄ちゃんのそばにいるから」と答えた。

その言葉を聞いて、祐介の口元に優しい笑みが広がった。「じゃあ、ちゃんと俺についてきてね」

里香は心の中が乱れていて、祐介の表情に気づく余裕はなかった。

少し離れた場所では、雅之が長い指でシャンパンのグラスを持ち、周りの人々が彼に話しかけていたが、雅之の視線はずっと二人に向けられていた。

ふん!やっぱり見間違いじゃなかった。確かに里香だ。どうやら、今夜は祐介のパートナーとして来ているらしい。

さっき、祐介があんなに里香に近づいて話していたのに、里香は避けもしなかった。

雅之は手に持っていたシャンパンを一気に飲み干し、そのまま祐介と里香の方へ向かおうとした。

その瞬間、一人の男が雅之の前に立ちふさがり、笑顔で「雅之さん、北村の旦那があなたをお呼びです」と言った。

雅之の端正な顔には冷静で淡々とした表情が浮かび、軽く頷いた。「分かった」

そのままその男についていき、冷たい視線はようやく里香から離れた。

あの冷たい視線が消えたことで、里香はほっと息をついた。

まさか雅之がここにいるなんて、里香には予想外だった。本来、雅之を避けるために出てきたのに、安江町に行けば雅之も出張で来ていて、冬木に戻れば今度は同じ宴会に招かれている。

まったく、なんて厄介な縁なんだろう。

祐介は里香が落ち着かない様子を見て
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