第170話

「そう言われると、確かにそれは一つの手かもね」と里香が言うと、由紀子は口元の笑みを深めて、「実はね、私はあなたのことが結構好きなの。もしあなたが雅之とずっと一緒にいられるなら、それは本当に素晴らしいことだと思うわ」と言った。

里香は淡々と微笑んで、「考えてみるわ」と返した。

由紀子は頷きながら、「何か必要なことがあったら、私に言ってね。必ず手伝うから」と言った。

「ありがとうございます」と里香は礼儀正しく応じたが、心の中では由紀子が何か企んでいるのではないかと疑っていた。しかし、彼女の地位を考えると、正面から対立するわけにはいかない。

だから、由紀子が何を言おうと、里香はただ相槌を打つことにした。実際に行動するかどうかは、自分で決めることだ。

里香は立ち上がり、「そろそろ帰りますね。失礼します」と言った。

「はい、気をつけて帰ってね」と由紀子は微笑みながら彼女を見送った。ゆっくりとコーヒーを飲み、膝の上に置いていたスマートフォンを手に取り、録音を終えるボタンを押した。

彼女の目には一瞬、危険な光が宿ったが、すぐに消え去った。

…

里香が家に帰ると、かおるから電話がかかってきた。

スピーカーフォンにして、料理をしながら話していると、かおるが「里香ちゃん、あの月宮って本当に酷いのよ！香菜が嫌いだって言ってるのに、いつも牛肉麺に入れてくるの。それを私に取り除かせるんだから、信じられる？」と怒りを露わにしていた。

里香は驚いて、「そんなに酷いの？」と尋ねた。

かおるはさらに怒り、「そうよ！本当に酷いの。なんで私があんな奴に優しくしなきゃいけなかったのか、今でも理解できないわ。あの時、彼を一発殴るんじゃなくて、殺すべきだったわ！」と吐き捨てた。

里香は「ダメよ、そんな男のために刑務所に入るなんて、全然割に合わないわよ」と言った。

かおるは深呼吸し、何か言おうとしたが、電話越しに月宮の声がかすかに聞こえてきた。

「わかった、わかった、すぐ行くから。あんな奴、呪ってやるわ！一生彼女ができないように！」

かおるは呪いの言葉をつぶやきながら、「里香ちゃん、先に切るね。バイバイ！」と言って電話を切った。

「うん」と里香は苦笑しながら電話を切った。

よく考えると、月宮はかおるに対して意地悪をしているんだと理解した。

男って、そんな些細なことで気にする