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第175話

雅之は病室のドアの前に立ち、暗い表情で里香を見つめていた。彼の深く細長い目はまるで冷たい池のようで、そこからは一切の温もりが感じられなかった。

里香は、周囲の空気が一気に冷たくなったように感じ、足元から寒気がじわじわと這い上がってくるのを感じた。無意識のうちに、周囲からの圧力がどんどん強まっているような感覚に襲われた。

里香の表情も次第に冷たくなっていく。「私を呼び出して、何があったの?」

もしかして、夏実が言ってたことに関係してるの?

いきなり自分に責任を押し付けるなんて、どういうつもり?

そんなことを考えながら、里香の目には冷たい光が宿っていった。

雅之は低い声で問い詰めた。「どうして夏実を誘拐したんだ?」

「はっ!」

里香はすぐに冷笑を浮かべた。やっぱりその話か。

まさか、こんな根拠もないことで呼び出して問い詰めてくるなんて。

里香は冷たく雅之を見返し、「頭おかしくなったんじゃない?私は孤児で、冬木では頼る人もいなければ、力もない。お金もないのに、どうやって夏実を誘拐しろっていうの?髪の毛一本で誘拐でもするつもり?」と言い放った。

そう言い終わると、里香は思わず笑ってしまったが、その笑顔の中には次第に悲しみが広がっていった。

雅之は、私のことを信じてくれない…

最初からずっと。

雅之が毒を盛られて吐血したときも、彼の目はまるで刃物のように鋭くて、私の心に突き刺さり、息ができないほどの痛みを与えた。

そして今、雅之はまたその刃を私に向けてきた。

里香はまだ十分に苦しんでないとでも思っているの?

私が一体何をしたというの?

どうしてこんな目に遭わなければならないの?

里香の悲しげな目が一瞬雅之の動きを止めたが、それでも彼の表情は依然として暗かった。「証拠はあるんだ」

雅之はスマートフォンを取り出し、録音を再生し始めた。

【雅之が夏実を手放せないのは、彼女に救われたからよ。でも、もし夏実がいなければ、雅之の目はあなたに向くはず】

【つまり、手伝ってくれるってこと?】

【君が望むなら】

【考えてみるわ】

録音は短かったが、確かに声は里香と由紀子のものだった。

夏実はふらりと体を揺らしながら言った。「昨晩、帰り道で誘拐されたの。もし東雲がいなかったら、今ここにはいなかったかもしれない。小松さん、どうしてこんなひどいこと
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