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第12話

「おいで」

冷たい短い二言が放たれ、電話は切れた。

まだ何も言っていないのに!里香は画面が真っ暗なスマホを見て、歯をむき出している。

くそったれ!

記憶喪失のときよりずっとかわいくない。

住宅ビルに降りて、夕暮れの太陽が里香の体を包み込み、暖かいオレンジ色の光が彼女を照らし、髪の毛まで光っているようだ。

ただし、車の横にいる人が雅之ではないとわかったとたん、里香の笑顔は消えてしまった。

「雅之は?」

里香は車に近づいて尋ねると、桜井は「社長には別の用事がありまして、代わりに私が二宮家の別荘へお迎えに上がりました」と答えた。

里香の心はなぜか急に沈んでいった。

両親に妻を紹介すること以上に重要なことがあるだろうか?

里香は唇を噛んで、車に乗ることにした。

車の中で、里香はスマホを取り出し、雅之に電話をかけてみたが、まったく出てこなかった。

この野郎!

里香はスマホを握りしめ、窓の外に目を向けた。

窓の外に広がる景色は美しく変わっていった。冬木市の南に位置し、山と川に囲まれた二宮家の邸宅は、素晴らしい立地に恵まれている。

車は黒と金色の門をくぐり抜け、一軒の洋館の前に停まった。里香のために車のドアを開けてくれた使用人も礼儀正しかった。

車から降りてきた瞬間、里香の目に驚きを浮かべた。

なんと立派な邸宅でしょう!

二宮家については以前から耳にしていたが、実際にその姿を見たことはなかった。今になって初めて、二宮家がまるで別世界の存在であることに気づいた。

「小松さん、中にどうぞ」

横で注意を促す使用人の目に、一瞬、軽蔑の色が浮かんだ。

里香は眉をひそめ、「私は雅之の妻なの。奥様と呼んでもらえる?」と訂正した。

しかし、使用人は里香の相手もせず、振り返って去ってしまった。

里香は、使用人の軽蔑的な態度に気づかないほど鈍感ではない。

唇を少し噛みしめたが、とりあえず別荘に入ることにした。

見知らぬ環境に少し緊張していたが、玄関に入るとすぐに小さな客間があった。

「ここで少し待っていてください。坊ちゃんはすぐに戻ります」

そう言い終わると、使用人が去ってしまった。

里香はソファに腰を掛け、自分を落ち着かせようとして手を膝に置いた。

大丈夫だよ、ただの使用人に過ぎないから。二宮家の態度を代表しているわけではない。

その時、玄関から数人が入ってきたが、その中の一人が由紀子だった。

里香の顔を見た瞬間、由紀子の顔に微笑みが浮かんだ。「小松さん、よく来てくれたわ。ぼうっとしないで中に入って」

里香は立ち上がり、礼儀正しく挨拶を交わした。「おばさん、こんにちは」

由紀子は微笑みながら、隣の男を里香に紹介した。「こちらは雅之の父です」

由紀子の横にいる中年の男性に目を向けると、彼は彼女をちらりと一瞥しただけで、息をのむほどの威圧感を放っていた。

「夏実はまだか?」と二宮正光が尋ねると、由紀子は「雅之が迎えに行ったって」と返した。

「ふむ」

正光が淡々と応え、そのまま大広間に入った。

由紀子は里香の方を見て、「ほら、広間で待っていてください。ここは使用人たちが休む場所なの」と言った。

里香の目には、わずかな気まずさが浮かんだ。

その使用人は、意図的なのか無意識なのか、どちらなのだろうか?

広間に足を踏み入れると、天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアが目を引き、控えめながらもどことなく富裕な雰囲気が漂っていた。

由紀子は「好きな場所に座ってください。雅之もすぐに戻ってきますから」と声をかけてくれた。

里香は二人が話していた女の子の名前に気づいた。雅之が迎えに行った女の子って、例の子なのだろうか?

およそ30分後、玄関でまた騒音が鳴り、すぐに二人が入ってきた。

先に入ってきたのは雅之だった。その後ろから続いて入ってきたのは、里香が以前クラブの個室で会った女の子だ。

この子が、夏実なのだ。

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