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第13話

由紀子は笑ってあの子に挨拶した。「夏実ちゃん、よく来てくれたね。道路で渋滞はなかった?」

夏実は白いドレスを身にまとい、長い黒髪を肩にかけ、礼儀正しい様子から上品な雰囲気を放っている。「おばちゃん、渋滞には遭わなかったわ。雅之の運転技術がとても優れているから、あっという間にここに着いたのよ」

二宮正光も声を掛けた。「ほら、手を洗ってご飯を食べましょう」

なんと優しい態度だ。

里香への冷たさとはまったく異なる。

使用人の顔にも笑みが浮かんだ。「今日は夏実さんのために、特別に好物の料理をたくさん用意しましたよ」

それまで気まずかった雰囲気が、夏実が登場したことで一気に和らいできた。

里香は傍らに立ち尽くし、呆然と目の前の光景を見つめていた。

自分は歓迎されていなかった。

みんな、夏実をひいきしているんだ。

そのとき初めて、里香が二宮家に訪れることを許してくれた雅之の考えを理解したような気がした。

雅之は、里香が二宮家に気に入られていないし、歓迎されているわけでもないことを伝えようとしているのだ!

この上ない残酷なやり方で。

きちんと身なりを整え、二宮家に受け入れられ、好かれることを夢見ていた自分が馬鹿らしい。

里香は爪が肌に深く食い込むほどに拳を握りしめ、手のひらから伝わる鋭い痛みが冷静を保つよう警告してくれた。

雅之の暗い視線が里香の青ざめた顔にとどまり、心の底にイライラが走った。「手を洗って、食事をしよう」と言った。

今は食事をする気分じゃないのに。

「私は…」

「あなたが小松里香さんですよね?」

その時、夏実がこちらに目を向け、顔に笑みを浮かべて里香に近づいた。「あなたのことは知っている。ずっとお礼を言いたかったの。この1年間、雅之をお世話してくれて、本当にありがとう」

本当に感謝の気持ちが込められているかのように、夏実の目はとても澄んで清らかだ。

その瞬間、里香は自己嫌悪に襲われた。

自分は他人の恋愛関係に割り込んで、しかも身を引かない卑怯な第三者だった。

「いいえ、私は別に」

里香は乾いた声で答えた。

二人で洗面台で手を洗うために洗面所に入ると、里香は目を落とし、夏実のスカートの裾から伸びる足に視線を移した瞬間、瞳孔が激しく収縮した。

彼女の一本の足は、義足だった!

里香の視線に気づいたようで、夏実は柔らかく微笑んだ。「驚かせてごめんね。二年前に雅之を助けたときに足を骨折したんだけど、幸い二年以上のトレーニングを経て、今は自由に歩けるようになったのよ」

里香は慌てて視線をそらし、「ごめん、わざとじゃないから」と詫びた。

夏実は手を拭きながらこちらを見つめた。「わかってるわ。こんな視線にはもう慣れたもの。ねえ、いつ雅之と離婚するの?この一年間、雅之の面倒を見てくれてありがとう。でも、私たちはずっと愛し合っているのよ。彼を私に返してくれない?」

里香は息が詰まり、一言も言えなかった。

雅之がこの子のために責任を取る必要があると言ったのは、これが理由だったのか?

あの二人はかつて愛し合っていた。

なら、私たちは?

一緒に過ごした一年間は何だったんだろう?

足が折れた夏美と比べて、その一年間は全く価値がない。

そうでなければ、雅之が簡単に諦めるはずがなかった。

里香は目を閉じた。「考えておくよ」

夏実は笑って言った。「できるだけ早くね。雅之が恩知らずという悪名を背負うことになるのは嫌だから」

話し終わると、夏実は先にトイレを出た。

里香はその場に立ち尽くし、少し呆然としていた。

こっちだって記憶喪失で話せない雅之を引き取り、長い間面倒を見てきたのに。記憶が戻るやいなや、これまで自分を支えてくれた相手に離婚を申し立てるなんて、それは恩知らずというものではないか?

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