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第19話

雅之は黒い瞳で彼女を見つめ、しばらくしてから再び椅子に腰を掛けた。

「そう思っていたんだけど、君のその姿を見て、障害者をいじめるのは僕のスタイルじゃないと思ってやめた」

里香は唇を引き締めた。

「社長の寛大さに感謝します」

偽りの感謝。

偽りの会話。

二人の間には、まるで透明な壁が立ちはだかっているようだ。お互いを見ることも、触れることもできるが、昔のような雰囲気はもう戻らなかった。

昨日までは、こんなことはなかったのに。二人の間の雰囲気が変わったのは、彼女が離婚を提案した後だ。

雅之はなぜかイライラしていて、襟元を緩めた。

「この数日はゆっくり休んで、プロジェクトのことは他の人に任せるから」

里香が「これは労災になるの?」と尋ねると、雅之は彼女を見つめ、何も言わなかった。

「労災なら賠償金が必要だよね?200万円でいいから、私の銀行口座知ってるでしょ?直接振り込んでおいてね」

雅之は絶句した。

この女は離婚を言い出してから、お金ばかり考えているのか?

300平米のマンションに2億円。そして今度は200万円?

雅之は冷たい口調で「お金を稼ぐ良い方法を見つけたようだね」と皮肉った。

里香の顔から笑みが消え、「離婚すれば大金がもらえるなんて、そんなことを知っていたなら、早く署名すればよかった」と答えた。

雅之の顔色がさらに暗くなった。

その時、病室のドアが開き、夏実が入口に立っていて、顔には優しい笑顔が浮かんでいた。

「雅之、検査が終わったわ、行こう」

雅之は立ち上がって夏実に近づいた。

「待ってって言ったじゃないか」

夏実「小松さんの怪我がどうなっているか気になって、大丈夫?」

雅之「うん、大したことはない」

里香「二人とも出て行ってもらえないか?こっちは静養が必要なんだけど」

どうやら自分が思い上がっていた。

雅之が一人で病院に来て、ずっと自分のそばにいてくれたと思ったら、まさか夏実と一緒に検査に来ていたのだ。

心が裂けるような感じがして、冷たい風が吹き込んできて、痛みと寒さが混ざり合っていた。

夏実はあわてて謝った。

「小松さん、誤解しないで、実は…」

「出て行ってと言ったでしょう!」

もうこれ以上彼女の話を聞きたくなかった。正確に言えば、この二人を見たくなかった。

二人の親密な態度、馴れ馴れしい様子
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