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第15話

空中に浮かんだ里香は無意識のまま彼を抱きしめ、その澄んだ瞳に驚きの光が宿った。

これは…どういう意味なのか?

雅之は里香の視線を無視し、車に乗せた後、簡易な救急箱を取り出し、足の怪我を手当てし始めた。

里香は彼の一連の行動を見つめ、まるで幻覚を見ているかのような感覚に陥り、まさくんを見ているような気がした。

まさくんだ。

「まさくん…」

「勘違いするな」と雅之は低い声で彼女の言葉を遮った。「ただ、些細なことで離婚を後悔するのが怖いだけだ」

バケツの冷水を浴びせられたかのような気分に襲われ、里香の心は一気に冷え切ってしまった。

なるほど。

里香が後悔しないか心配しているんだね。

ふっ!

里香は足を引き戻し、「心配しないで。私は言ったことを撤回しないから」と答えた。

しかし、細い足首は男の冷たい指に挟まれ、動けなくなってしまった。

抵抗しようとしたところ、逆にスカートの裾がめくれ上がり、すらりとした華奢な脚が少し露わになった。そのわずかに見える足がさらなる色気を醸し出していた。

雅之の視線は里香の長い脚に留まった。その角度からは、里香の脚がはっきりと見えていた。

里香はすぐにスカートを下ろし、その色白な顔を赤く染めて、「何を見ているんだ、このスケベ」と叱った。

「ふっ」

雅之は軽く嗤い、目を上げ、暗い視線を彼女の顔に落とし、指に力を入れ、そのまま里香を自分の前に引き寄せた。

里香は驚きの声を上げ、無意識に両手を彼の肩に置いた。

「私たちは今、まだ夫婦なんだ。スケベと呼ばれるのは少し不適切ではないか?」

雅之は彼女の美しい顔を見つめた。

「それに、僕はスケベ呼ばわりされるようなことをしたのか?」

目の前の男は、里香にとって見知らぬ人のようだった。

顔は相変わらずその顔だが、その深い目は誘惑の笑みを帯び、口元には邪魅なカーブが描かれ、全体的に邪気が増していた。

これこそが雅之の本当の顔だった。

里香は彼を見つめ、瞳を一瞬きらりと光らせた。

「何をしたのかって?自分自身に聞いたら?」

里香の視線は、自分の足首を握っている雅之の手に落ちた。

その長い指は、今、彼女の柔らかい肌を意図的に、あるいは無意識に撫でている。

雅之はニヤリと笑い、彼女を見つめてしばらく考え、何かを思い出したようで、息を吹きかけた。

車のドアは大きく開いていたが、車内の雰囲気は絡まり合っていて、何かが発酵しているようだった。

しかし、その時、突然の携帯電話の着信音が鳴り始めた。

雅之の瞳の中の暗い笑いは一瞬で消え、里香との距離を取り、スマートフォンを取り出して電話に出た。

「もしもし、夏美ちゃん?」

低い磁性の声で、他の女性の名前を呼んで、しかも親しい口調で。

里香の心は激しく痛み、力いっぱい足を引き抜き、雅之の急に冷めた顔を気にせず、彼を押しのけて外に出た。

「放っておいて!」

雅之には守るべき人がいるんだから、彼にとっての自分は何者でもない!

腕を急に引っ張られ、後ろから男の声が聞こえた。

「うん、ちょっと用事があるから、後で話す」

そして、電話が切られた。

雅之は力強く里香を引き戻し、「何を騒いでるんだ?足を怪我してるのに分からないのか?」と言った。

里香は必死に抵抗した。

「雅之、もうすぐ離婚する相手に絡んできたら、本当は離婚したくないじゃないかって思われてしまうよ!」

その言葉が終わると同時に、雅之の手の力が急に緩んだ。

その瞬間、里香の心も同じように空っぽになった。

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