共有

第2話

私は抑えきれず、自然と体が下へと漂っていった。

胚胎だと分かっていても、自虐的にその子を確認したくなった。

これは、私の初めての子供。

きっと、私が母親失格だから会いたくないのだろう。

それでも、私は彼を抱きしめて、「愛してる」と伝えたかった。

世界中の誰よりも、私は彼が無事に生まれてくることを願っていた。

そう思うと、涙が溢れ出し、悲しみが次第に広がっていった。

「遺体の身元をデータベースに送って、照合してくれ」

「死亡したのはおそらく1年前だから、この1年間に失踪した人物を重点的に調べてくれ」

謹言は全てを終えると、淡々と道具を片付け、帰ろうとしていた。

「そうだ、佐木先生」

助手が何かを思い出したように話しかけた。

「また昭子の母親が、先生を探して正門の前で騒いでいます。裏口から出た方がいいですよ」

私は驚いた。母が?

母が謹言に何の用なんだろう?

謹言は薄く笑い、冷たい言葉を吐いた。

「毎回しつこく来て、何をそんなにこだわっているんだか、分からないな」

助手も眉をひそめ、軽蔑のこもった声で言った。

「そうですよね。職業倫理も何もない弁護士に、何を期待しているんでしょうか?」

「当時のあの事件、結局何も変わりませんでしたね。昭子はあの殺人犯を無罪にしようとしてたんですから」

「非難されても仕方ないですよ。怖くなって逃げたんですし」

それは、一年前の悲惨な事件だった。

監視カメラもない田舎道で、誰かが車に何度も轢かれ、犯人は逃走した。

私の依頼人、井上雄太はその容疑者だった。

雄太の妻は全財産を売り払い、私のもとへやって来た。

「鈴木先生、あなたはこの業界で一番有名な弁護士です。どうか、夫を助けてください!」

「彼は無実なんです!私は誓って言います!」

その障害のある女性は、二人の小さな子どもを連れ、私の前で泣き崩れて助けを求めた。

彼女の必死な姿を見て、私は彼らの頼みを受けることにした。

依頼人に少しでも後悔や不当な扱いを受けさせたくはなかった。

当時、皆が雄太を犯人だと信じていたが、私は彼の弁護を引き受けた。

それ以来、私への批判の声がますます大きくなった。

「人殺しを擁護するなんて、非道な弁護士だ」と、世間は私を罵った。

外に出ると、卵を投げつけられたり、家のドアには赤いペンキがかけられたりした。

それでも私は気にせず、証拠を見つけることに専念した。

半月もかけて連日証拠を集め、ついに見つけたのは、血のついたボタンだった。

それは、現場に第三者がいた可能性を示す重要な証拠だった。

だが、証拠を提出しようとしたその時、母が誘拐されたという知らせを受けた。

私は警察に通報する暇もなく、ひとりで廃工場に向かった。

しかし、そこで待っていたのは母ではなく、千絵だった。

「昭子、あんたみたいな人間が、私を潰そうなんて思ってたの?」

「弁護なんてするからだ!私が事故を起こした証拠を見つけたんだろう?」

その瞬間、真犯人が千絵であることを知った。

彼女は私が油断した隙に、私をアスファルトの池に突き落とした。

アスファルトが少しずつ私の体を締めつけ、毒ガスが私の意識を奪っていった。

千絵は私が力尽き、池に沈んでいく様子を見届けた。

死ぬ直前、彼女はこう言った。

「仕方ないわね、昭子。あんたが死んでくれなきゃ、私の飲酒運転がバレちゃう」

「それに、あんたがいなくならないと、私は謹言と一緒になれないのよ!」

私が消えたことが、彼らにとって私を中傷する口実になった。

「私は無実だ!当時、あの男も無罪だったんだ!」

確かな証拠を見つけたというのに!

私は謹言に向かって、声を張り上げて叫んだ。

だが、すべては無駄だった。

彼の表情は、私の存在が彼の恥であることを思い出したかのように、冷たい笑みを浮かべた。

そして、助手の言葉に同意した。

「弁護士が良心を裏切って、犯人を弁護するとはな」

「非難され、金を受け取って逃げた弁護士なんて、この業界の恥だ」

謹言の軽薄な一言が、私が弁護士という職業に捧げてきた全ての尊厳を粉々に砕いた。

彼の目には、私はただの卑怯で腐った存在として映っていた。

謹言、あなたは私の努力を誰よりも知っているはずなのに、どうしてこんな罪を押し付けられるの?

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status