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逝後の悲劇:婚約者の解剖刃
逝後の悲劇:婚約者の解剖刃
著者: 彩筆

第1話

自分の体が再び人目に触れることになるなんて、夢にも思わなかった。

解剖台の上に横たわる遺体を、ただ茫然と見つめていた。

一体どうして、こんなにもアスファルトまみれになり、まるで焼かれたかのような姿になってしまったのか......

「佐木先生、来たんですね?」

隣にいた助手の夏目が、謹言に挨拶した。

工場の匂いが空気中に漂い、謹言は眉をひそめた。

その顔つきは、生前の私を見た時とまるで同じ。

冷たく、よそよそしく、嫌悪感さえ感じられる表情だった。

「どういうことだ?」彼はそう言いながら、手袋をはめた。

「今朝、郊外の旧工場が取り壊され、そのアスファルトの池の中から発見されたんです」

「顔はひどく損傷していて、激しい争いがあったことが分かります。これは明らかに故意に復讐されたものです」

「体はアスファルトで腐食し、気道にもアスファルトが詰まっています」

謹言は低く「ふん」と鼻で笑い、道具を手に取った。

私は空中に漂いながら、彼をじっと見つめていた。

最後に彼と会ったのは、一年前のことだったのを、ぼんやりと思い出した。

彼は千絵を平手打ちした私に激怒し、こう言ったのだ。

「鈴木昭子、若い女の子を困らせるなんて、弁護士がすることか?謝らないなら、結婚は無しだ!」

その日、私は千絵にアスファルトの池に突き落とされた。

死んでからも、あまりの怨念に成仏できず、廃工場を彷徨い続けていた。

そして、今日ついに発見されたわけだが、まさか解剖するのが謹言だなんて......

一年ぶりの再会が、こんな形で訪れるとは思いもしなかった。

彼がメスを手に取ろうとしたその時、ふと何かを思い出したかのように助手に聞いた。

「実験室の消毒と換気はちゃんとしているか?」

「アスファルトの毒性はかなり強いからな」

助手は笑って答えた。「もちろんです、佐木先生。田中先生と妊活中だって知ってますから!」

千絵の名前を聞くと、謹言の顔に微笑が浮かんだ。

「そうだ、万が一にも失敗は許されない。半年も健康的な生活を心掛けているんだからな」

「もし千絵が失敗したら、どう言われるか......」

彼らの何気ない会話を聞いていると、胸がナイフで切り裂かれるような痛みが走った。

一年経った今、私の婚約者と私を殺した犯人が妊活をしているなんて......

その事実を、私の解剖が行われている最中に知ることになるなんて......

胸が痛みすぎて、彼が私を解剖していることが原因なのか、彼と千絵の妊活を知ったことによる痛みなのか、もう分からなくなっていた。

「顔には48箇所の傷があり、眼球は破裂していて、どれも鋭利な刃物で切りつけられたものです」

「気道内はアスファルトで塞がれており、毒ガスにより中毒死している。体にもひどい火傷が見られます」

助手は顔をしかめ、思わず嘔吐しそうになった。

「ナイフで刺され、毒で殺され......さらにアスファルトの池に閉じ込められて、身動きも取れないなんて......この人は、生きながら窒息死したんですね」

彼らの話を聞きながら、私は小さく頷いた。

そう、私はまさに絶望の中で、生き埋めになったのだ。

謹言がメスを私の下腹部に入れた。

「下腹部にわずかな膨らみがあり、中には2か月ほどの胎児がいますね」

私はふわりと漂い、小さなまだ形を成していない胎児を見つめた。

それは、私と彼のまだ生まれていない子供だった。

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