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第4話

これは謹言に付きまとってから7日目だった。毎日、彼と千絵が仲睦まじく過ごす姿を見せつけられ続けている。

彼らは一度も私のことを話題にすることはなかった。

彼らにとって、私のような存在が現れること自体が、二人の純粋な愛を汚すものだったのだろう。

千絵がそっと謹言の耳元に口を寄せた。

「ねぇ、あなたに秘密があるの」

「おっ、何の秘密?」謹言は好奇心を装って、顔を近づけた。

「それはね......」

「ドンドンドン!」

突然、ドアを叩く音が、二人の和やかな雰囲気を遮った。

ドアが開かれると同時に、大きな手が彼の腕をぐっと掴んだ。

「謹言、お願い、これを見て。新しい証拠を見つけたの。これを提出してくれない?」

ドアの外には、私の母が立っていた。

この数日間、私は母の姿を何度も見かけた。

彼女は毎回、私の冤罪を晴らそうとして必死だったが、そのたびに追い返されていた。

父は早くに亡くなり、母は一人で私を育ててくれた。

だが、母の姿を見ても、謹言はためらうことなくドアを思い切り閉めた。

母の指はまだドアの隙間にあったのに、ドアが勢いよく閉まる音が響き渡り、母の手に激しく当たった。

母の右手は瞬時に紫色になり、握っていた書類が床に散らばった。

それでも彼女は痛みに耐え、赤くなった目をして、一言も叫ばなかった。

「お母さん......」

私は母に手を伸ばしたが、彼女の体をすり抜けることしかできなかった。

母は無理に笑顔を作り、震える手で散らばった書類を拾い始めた。

「見て、雄太の家族が言ってたのよ。昭子はあの時、汚いお金なんて受け取っていないって!」

「それに、航空会社にも確認したら、彼女はその時、飛行機には乗っていなかったのよ......」

その書類の一部は色が黄ばんでいて、少し古びていた。新しいものもあり、最近見つかったものなのだろう。

すべて、私が無実であることを証明するためのものだった。

謹言は無表情で母の言葉を遮った。

「真由美さん、もういい加減にしてください」

「雄太はすでに有罪判決を受けているんです。この件はもう決着がついています!」

「昭子は当時、殺人犯から金を受け取り、良心を捨てて弁護をしたんですよ。そんな人間が、まともなわけがないでしょう?」

「その後、非難されて、飛行機のチケットを買って逃げたんです!」

「そんなことあるはずがない!私の娘はそんな人間じゃない!」母は必死に反論した。

しかし、謹言は母が持ってきた書類を手荒に破り、怒りをぶつけるように彼女の顔に投げつけた。

「何を証明するんですか!真由美さん、昭子は弁護士としての資格がなかったんです!」

「やめて!」

母は破れた書類の破片を拾おうと手を伸ばしたが、千絵がその上に水をこぼした。

「ごめんなさい、真由美さん、手が滑っちゃって」千絵は涼しい顔で笑った。

「バックアップは取ってないんでしょう?」

母はその場にへたり込み、声を上げて泣き出した。

「どうして......」

「毎晩、昭子が夢に出てきて言うんです。私は無実だって......」

私は母の姿を見ながら涙が止まらなかった。

母を抱きしめて慰めたかったが、どうすることもできなかった。

母の泣き声が周囲の人々を集め始めた。

千絵はわざと声を張り上げた。

「真由美さん、もうこれ以上騒いでも意味はありませんよ。昭子が良心を裏切って、殺人犯を弁護したのは事実ですし、それを恥じるべきことなんですから」

「彼女は汚い金を受け取ったんです。弁護士としての資格なんて、すでに失っています!」

「そんなことあるはずがない!私の娘は、絶対に職業倫理を犯すような人間じゃない!」母は強い口調で言い返した。

謹言は冷淡に言い切った。

「真由美さん、もしこれ以上騒ぎ立てるなら、私は昭子の弁護士資格を取り消すように申請しますよ」

その瞬間、私の心は引き裂かれるような痛みに包まれた。

謹言、あなたは私から全てを奪い去った。それでも、今度は私が最も大切にしていたものまで奪うつもりなの?

あなたは分かっているはずだ、弁護士という職業が、私の理想であり誇りであったことを。

どうして、そんなことができるの?

母は力なく地面に座り込んだ。彼女の努力が無駄になったことを見て、周囲の人々は彼女を指差しながら、「こんな恥知らずな娘を育てたのか」と罵った。

謹言は母を助けるそぶりも見せず、冷たくドアを閉めた。

「ところで、さっきの秘密ってなんだった?」謹言は期待に満ちた目で千絵を見た。

「私、妊娠してるの!」千絵は嬉しそうに検査結果の紙を取り出して、謹言に差し出した。

謹言は驚きと喜びで顔を輝かせ、千絵を抱き上げて部屋の中を何度も回った。

「僕がパパになるんだ!」

部屋の中からは二人の喜びの声が聞こえ、外には母の悲しみの泣き声が響いていた。

私と私の子どもがようやく見つかったその日に、私の元婚約者と私を殺した犯人は新しい命を迎えようとしていた。

なんて皮肉なんだろう。

その時、謹言の携帯が鳴り出した。

その音は、まるで何かを急かすかのように響いていた。

謹言が電話に出ると、向こうから声が聞こえてきた。

「佐木先生、化学検査の結果が出ました」

「その遺体の身元は......昭子です」

「1年前に失踪した弁護士、昭子です」

その瞬間、謹言はその場に固まり、信じられないという様子で聞き返した。

「何だって?」

電話の相手は少し間を置いてから再び伝えた。

「佐木先生、DNAが一致しました。亡くなったのは、あなたの元婚約者、昭子です」

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