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第60話

異変に気づいた海賊の頭目は慌てて振り返ったが、肩に構えたライフルを持ち上げる間もなく、

二丁の拳銃が彼の左右の頭に突きつけられていた。

海賊の頭目は恐怖で呆然とした。

その時、大勢の黒い武装服を身にまとった威厳のある兵士たちが突入してきた。

その中には、圧倒的な威圧感と冷酷な表情を持つ、まるで王者のように現れた男がいた。

軍戦グループ、田中一郎だった。

渡辺玲奈はこの時、胸が高鳴り、感激に胸を打たれた。最も危険な時に、田中一郎はいつも絶妙なタイミングで現れる。

彼が自分のために来たわけではないが、それでも彼女は感動して涙ぐんだ。

その時、伊藤千佳が人混みから立ち上がり、興奮して叫んだ。「一郎お兄ちゃんが私を助けに来てくれた!」

渡辺玲奈は一瞬戸惑い、表情が曇った。

伊藤千佳は興奮しながら田中一郎の方へ走っていった。

田中一郎は厳しい目で彼女を指し、「下がれ」と命令し、叱責した。

伊藤千佳は全く聞く耳を持たず、わがままに駆け寄りながら甘えた声で言った。「一郎お兄ちゃん、やっと助けに来てくれたのね……うう……」

伊藤千佳が海賊の頭目のそばを通り過ぎた時、海賊は彼女の腕を掴んで胸前に引き寄せ、鋭いナイフを喉に突きつけた。

その場にいた全員がこの無謀な女に呆れ、再び緊張感が高まった。

海賊の手に握られたナイフは伊藤千佳の首に突き刺さり、鋭い刃が彼女の肌を切り裂き、血がじわりと滲み出てきた。

伊藤千佳は恐怖で顔色が青ざめ、泣き叫んだ。「一郎お兄ちゃん、うう、助けて……殺して、助けてよ……」

海賊は歯を食いしばって叫んだ(静和語)。「俺を逃がせ……」

田中一郎の目はさらに険しくなり、堂々たる体躯をゆっくりと前に進めて「どういうことだ?」と問いただした。

海賊はまたしても静和語で何かを言った。

田中一郎は眉をひそめ、そばにいた特助に尋ねた。「兼家克之、何を言っている?」

兼家克之は首を横に振った。

田中一郎は常盤太郎に目を向けた。

常盤太郎も首を横に振った。

田中一郎は場内を一瞥し、視線が渡辺玲奈に止まると、黒い瞳がわずかに震え、一瞬の驚きがその瞳に浮かんだ。

渡辺玲奈がこのクルーズの宴会にいるとは思ってもみなかった。

しかも彼女はこんなにも美しく着飾っており、田中一郎は一瞬、目を奪われた。

しかし、公務中のため、私事に気を取
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