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第9話

智也はその場で凍りつき、炎天下にもかかわらず、突然冷や汗が噴き出した。

額から大粒の汗が滑り落ちた瞬間、彼は何かを思い出したかのように、狂ったように私の病室へと走り出した。

途中で雪子と出くわした。

雪子は智也を見ると、喜びに満ちた表情で彼の腕を掴もうとした。「智也、先生がね、これは普通の術後反応だって……」

しかし、智也は彼女を振り払うように手を強く振り、駆け去ってしまった。

雪子はバランスを崩し、壁にぶつかって小さく悲鳴を上げた。

でも智也はそれどころじゃなかった。

彼は勢いよく病室のドアを蹴り開けた。

だが、そこには私の体はなく、新しいシーツと布団だけが残されていた。

看護師が医療器具を片付けていて、彼を見て驚いたが、すぐに冷たい表情を浮かべた。

「もう、藤井さんが来ないと思っていましたよ」

「彼女はどこだ!?」

智也は看護師に駆け寄り、鋭い目つきで問い詰めた。「優花はどこだ!

俺の許可なしに勝手に病室を変えるなんて許されると思ってるのか!俺は彼女の夫だ。俺が許可しない限り、誰も彼女を動かすことはできない!

答えろ!」智也は看護師の手を強く掴み、青筋が浮き出ていた。

おそらく、私の見間違いではないだろう。彼の手は微かに震えていた。

まるで……怖がっているようだった。

2年以上、私を担当していたこの看護師は、智也に不満を抱いていたため、彼がこんな様子を見せても、恐れるどころか冷笑を漏らした。

「どうしたんです?死んだ後に回収するつもりだったんですか?優花さんがベッドで腐るのを待ってたんですか?」

智也は深く息を吸い込み、目が血走りながら言った。「どういう意味だ、それは?」

彼は部屋にあった医療器具を、怒りに任せて床に叩きつけた。

「ガシャーン!」と大きな音が響いた後、彼の体が激しく震え始めた。「優花はどこに隠したんだ?」

看護師は哀れみの眼差しを向け、一言一言をはっきりと告げた。「死んだんですよ。

もう半月も前に亡くなったんです。あなたは一度も見に来なかったから、知らないのは当然ですよ」

智也はその場で支えを失い、後ろに2、3歩よろめいた。

そして、冷たい病院の壁にもたれかかりながら、声を張り上げて叫んだ。「この手術、絶対大丈夫だって言ったじゃないか!」

彼の瞳には、瞬時に恐怖と絶望が広がっていった。

私の死
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