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第10話

すぐに雪子が駆けつけた。

彼女は智也が呆然としている姿を見て、泣きそうな顔で近づき、華奢な指で彼の手を優しく握ろうとした。

「智也、どうしたの?」

「さっき人にぶつかって、すごく痛かったんだから……」

智也はぼんやりとしていたが、ハッとして我に返った。

雪子を見つめる彼の目には、わずかに困惑の色が浮かんでいた。

しかし、すぐに雪子のことは気にしていられなくなった。

というのも、看護師が駆け込んできたからだ。「智也、早く優花の母親の治療費を払ってきて!」

智也はすぐに駆け寄って、「彼女はどうなったんだ?」と尋ねた。

「助かりました。一応、命に別状はないです」看護師は雪子を見下しながら、鼻で笑った。「二階でよかったですね、もしもっと高かったら……」

智也はすぐに外へ出ようとした。

しかし雪子が彼の腕を掴んだ。「智也、私のことはどうするの?

私にはまだ目が見えないんだから、どうやって家に帰ればいいの?」

智也は彼女を見つめ、微妙に3秒ほど黙った。

それから、彼女の手を振り払って言った。「この件が終わったら送っていく」

雪子は智也が去っていく背中を睨み、その目には一瞬の憎しみが浮かんだ。
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