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第266話

私は窓の外を見て、一瞬、涙が雨のように流れ落ちたかのように感じたが、顔はまったく濡れていなかった。

視界は驚くほどクリアで、まるで何もかもがはっきりと見えた。

家に帰ったばかりのところで、不動産仲介から突然電話がかかってきた。買い手が決まったという。あの海絵マンションの家を購入するとのことだった。

しかも、値段を一切値切らずに。

買い手と会って話をして、問題がなければ契約を結んで手続きに進めると言われた。

海絵マンションに向かう途中、ずっと考えていた。もしこの家がもう少し早く売れていたなら、南希はRFグループの投資に頼らなくて済んだかもしれない。

だが、世の中に「もし」はないんだ。

とはいえ、大きな支えがあれば楽に進めることもあるし、一長一短だろう。

海絵マンションに到着すると、仲介業者の隣に立っている「買い手」を見て驚いた。「山名社長、あなたが......この家を気に入ったんだか?」

「そうだよ」

山名佐助は少しも驚く様子もなく、非常に穏やかだった。「清水社長、また会ったね」

私は笑って言った。「偶然だね。昼に私に資金を投入して、午後には私の家を買うなんて、どうやら私の財運を引き寄せているみたいだね?」

「では、この勢いで南希の財運も引き寄せられたらいいな。4Qで最も期待している投資プロジェクトだからね」

山名佐助は冗談交じりにそう言った。

私は軽く笑い、話を本題に戻した。「本当にこの家を購入するつもりなんだね?」

「そうだよ」

山名佐助は周りを見渡し、少し残念そうに言った。「この家はまだ新しいように見えるし、内装も非常に丁寧に仕上げられてる。かなり手間をかけたようだが、どうして売ろうと思ったんだ?」

「元旦那がくれたものだから」

私は爽やかに、率直に答えた。「手元に置いても意味がない。現金に換えた方がいいと思う」

愛しているときは、相手の髪の毛一本にも特別な意味があったが。

別れた後は、相手の髪の毛一本ですら煩わしいだけだ。

ましてや、こんな大きな家はなおさらだった。

いつも私に、かつての自分がどれほど愚かで滑稽だったかを思い出させるんだから。

山名佐助は眉を上げて言った。「元旦那?彼が浮気したのか?」

「大体そんなところね」

私は軽く返事をした。

江川宏とのことは、あまりにも複雑だった。

浮気かどうかの問題
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