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第546話

晴人が彼女の携帯を手渡してきたとき、高村は本当に受け取りたくなかったが、周囲の視線を感じて、仕方なく手を伸ばし、携帯の画面を拭きながら「ありがとう」と言った。

「どういたしまして。大したことじゃないさ」晴人は淡い笑みを浮かべ、金縁のメガネが鋭い光を放っていた。

高村は冷たく「どうしてここにいるの?」と尋ねた。

「景色がいいって聞いたから、気分転換に来たんだ。まさか君に会うとは思わなかったけどね」

高村は疑わしそうに彼を一瞥した。

晴人は盗まれた携帯を見ていた路人と押さえつけられている犯人を一瞥し、携帯を取り出して警察に通報した。

電話を終えると、「すぐ警察が来るから、ここで待っていたほうがいい」と言った。

その時、由佳が足早に近づいてきて「高村、大丈夫?」と声をかけた。

高村は「大丈夫よ。あなたたちは先に行って、警察が来て事情を聞かれたら、後で追いつくから」と答えた。

由佳は隣の晴人に目を向けて、「彼がここにいるの?」と聞いた。

高村は白目をむき、清次を一瞥し「気分転換に来たんだって。信じるかどうかは別だけどね」と皮肉っぽく言った。

その言葉に内包された意味を受け取った清次は、表情を変えずに晴人を一瞬見つめた。

二人の視線が一瞬交差したが、晴人はすぐに視線を逸らし、高村の方に目を戻した。

清次も目をそらし、沙織にたこ焼きを一つ与えた。

由佳は状況を理解し、「それじゃ、私はここで一緒に待つよ」と提案した。

「いいえ、そんなことしなくていいわ。時間も押してるし、あなたは先に行って、撮影を続けて。終わったら電話するから」

「わかったわ」

由佳は清次に向かって「じゃあ、行こう」と促した。
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