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第549話

その瞬間、二人の視線が交差し、高村が先に口を開いた。「いらないわ。普通に注文でいいのよ、私が払えないわけじゃないから」

晴人は皮肉を込めて微笑み、「さすが高村、太っ腹だね!」と言いながら、メニューを手に取り、一品一品注文し始めた。

高村は気づいた。晴人はわざとたくさん頼んで、彼女に仕返しをしようとしていたのだ。

店員が去った後、高村はため息をついて言った。「晴人、変わったわね」

晴人が眉を上げた。「ん?」

「前よりケチになったし、食欲も増えたみたい。まさか海外で食べ物に困ってたんじゃない?」

晴人は笑みを浮かべ、金縁のメガネが知的な光を放った。「この前、西洋料理店で君が年配の男性と食事をしているのを見かけたよ。あれはお見合い相手だろう?四、五十歳くらいに見えたけど、よく我慢できたね」

お見合いの話になると、高村は父親とその愛人のことを思い出し、イライラが募った。

彼女は即座に言い返した。「あなたみたいな人じゃ、そもそもお見合い相手すらいないでしょうけど」

晴人が何か言い返そうとしたその時、テーブルの上に置かれたスマホが光り、着信音が響いた。

晴人は指で「静かに」と合図し、電話に出た。その声色は急に優しくなり、「イリヤ、どうした?」と話しかけた。

イリヤ。明らかに女性の名前だった。

電話の向こうで何かを言っているのか、晴人は穏やかに「焦らないで。数日中には戻るから、帰ったらお土産を持っていくよ」と言って電話を切り、携帯をテーブルに戻した。そして高村に微笑みながら、「さっき何か言ってた?」と聞いた。

「別に」高村は眉を上げて、興味津々で尋ねた。「彼女、あなたの恋人?」

晴人は笑いながら、高村の表情をじっと見つめたが、否定はしなかった。

高村はため息をついて、「どうしてそんな女の子があんたみたいなのを好きになるのか、全く理解できないわ」と呟いた。
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