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第389話

彼はどうすればいいのだろう?

どうすれば彼女を引き止められるのか?

由佳は再び口を開いた。「薬を渡さなくても構わないわ。もう一度中に入って買ってくるから、先に帰って」

そう言って、防空箱を手にペットクリニックに戻ろうとした。

「待って」清次は背後から彼女を呼び止め、胸の内の苦しさを必死に抑えながら言った。「新しい薬を買う必要はない。僕が薬を渡すよ」

由佳は足を止め、振り返った。

いつの間にか清次は彼女の後ろに立っていて、薬の入った箱を差し出し、何か言おうとしたが結局言葉にできなかった。

由佳はそれを受け取り、彼を見上げて言った。「ちびの治療費はいくら?後で振り込むわ」

「それは必要ない」

「必要があるよ。私たちはもう離婚したんだから……」

その瞬間、清次の心にあった挫折感が一気に頂点に達し、冷たい声で言った。「そんなに僕との間をきっちりと分けたいなら、スリから財布を取り戻してやったことに、どう感謝するんだ?群衆の中から君を救い出したことに、どう感謝するんだ?雅人から君を助け、薬の影響を和らげて緊急で病院に運んだことに、どう感謝するんだ?これら全部、まとめて返してくれるのか?」

由佳は眉をひそめた。まさか、いつも冷静で厳しい清次が、ここまで細かいことを言うとは思わなかった。

けれども、彼の言ったことは全て事実だった。彼は確かに彼女を助けてくれたし、恩を仇で返すわけにはいかなかった。

由佳は少し考えてから言った。「分かったわ。スリから財布を取り戻してくれたことに感謝するわ。いくら欲しいの?」

「群衆の中から救い出してくれたことにも感謝するわ。君に感謝状を送るのはどう?」

「雅人の件、いささかおせっかいだが、本意は良かったわ。治療費はいくら?それを振り込むわ。もしくは感謝状を2枚送るのはどう?」

「それから、前の事故のこともね。医療費がいくらかかっても払うわ。謝礼が欲しいなら、それも考える」

彼女が本当に感謝のことを真剣に考え始めた様子を見て、さらには雅人の件で清次を怒らせることを忘れずに言ったので、清次は怒りで血を吐きそうになった。歯を食いしばりながら言った。「感謝状は結構だ!もし感謝したいなら、食事を3回おごってくれ。それでいい。日程は僕が決める」

由佳はため息をついた。やはり、最悪の事態が起こってしまった。

彼女はむしろ清次が金
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