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第390話

由佳は豪邸に戻り、防空箱を床に置いた。

ちびは新しい環境に慣れていないのか、防空箱の中で縮こまり、なかなか外に出ようとしなかった。箱の壁にある小さな穴から、慎重に周囲を観察していた。

由佳は猫用スティックを取り出し、少しだけ防空箱の入り口に押し出した。

ちびはその匂いを嗅ぎつけ、小さな鼻をひくひくさせながら、慎重に頭を出した。

由佳を見て少し安心したのか、ちびはすぐに気を許し、出てきて素早くスティックを食べ始めた。3秒でチキン味の猫スティックを完食した。

ちびはスティックを食べた場所をぺろぺろと舐め、匂いを嗅ぎ続けたが、匂いがなくなると顔を上げて由佳を見つめ、「ニャー」と鳴いた。

由佳の心はそれだけで温かくなって、猫用のお皿を持ってきて、残りのスティックを全てそこに入れてあげた。

ちびは再び夢中で食べ始め、皿をきれいに舐め尽くした。

食べ終わると、ちびは新しい環境を少しずつ警戒しながら探り始めた。

……

夜の9時過ぎ、高村が帰宅した頃には、ちびはすでにリビングの中を歩き回るほど慣れていた。

ドアの開く音に驚いたちびは、素早くテーブルの下に飛び込んだ。

高村は驚いて、「今、何か大きな黄色いネズミが走り抜けた気がする!」と言った。

「はははは……」由佳は大笑いし、「ネズミじゃなくて、ちびだよ!」

「ちび?猫ちゃん!」と聞いた高村は、バッグをソファに放り投げ、すぐに床にひざまずいて顔をテーブルの下に押し付けた。丸い目がちびの目とぴったり合った。

「可愛い!ちび!出ておいで!抱っこさせて!」と目を輝かせた。

しかし、ちびはテーブルの下からなかなか出てこなかった。

由佳は立ち上がって、冷凍ドライフードの入った缶を取って、開けて高村に渡した。

高村はすぐに缶を開け、手のひらに鶏肉のフリーズドライを2つ乗せ、テーブルの下に手を差し伸べた。「ちび、これを食べにおいで!」

ちびはまだ出てこようとはしなかった。

高村は疲れた様子で、フリーズドライをテーブルの下の床に置き、ソファにどさっと腰を下ろした。「また清次が君に絡んできたの?」

由佳は淡々と「うん」と答え、高村の心配そうな目を見つめ、「心配しないで。私は彼を許さない。彼が言った三度の食事だけは付き合うけど、それでもまだ付きまとってくるなら、父の件が片付いたら私は移民するつもりだわ」と言って
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