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第388話

由佳は有名人ではないため、ネット上に彼女の写真はあまり出回っていなかった。

受付の女性は彼女に気づかず、清次が新しい恋人を連れてきたのかと思った。

彼女がちびをケージから出し、防空箱に入れようとしたところ、由佳が「私に任せて」と言ってちびを抱き上げた。

受付の女性は少し戸惑って、「お嬢さん、猫カビは人にも感染する可能性があるんですよ……」

「分かってる。大丈夫」由佳は答えた。

それを見て、受付の女性は清次に「清次様、少々お待ちください。ちびの薬をお持ちしますね」と言った。

「分かった」

由佳はソファに座り、ちびのエリザベスカラーを持ち上げ、じっとちびを見つめた。

一ヶ月ぶりに会うちびはずいぶん大きくなっていたが、まだ子猫のままの可愛らしい外見をしていた。毛は少し伸び、体もふっくらしていた。

お腹がぷくぷくしていて、きっとよく食べているのだろう。

後ろ脚の毛は剃られていて、一部が赤くなっていて毛がなくなった。そこが猫カビの患部だろう。

ちびは由佳の腕の中に丸くなって、白い手袋のような前足を彼女の腕にのせて、顔を上げて由佳を見つめながら「ニャー」と鳴いた。

まるで「ずっと会ってなかったけど、どこ行ってたの?」と言っているようだった。

由佳の心はすっかり柔らかくなり、ちびの背中を撫でながら、優しく「ニャー」と答えた。

「ニャー」とちびも続けて鳴いた。

「ニャー」と由佳もまた答えた。

こうして、彼女とちびは互いに「ニャー、ニャー」と鳴き合っていた。

清次の口元には、思わず微笑みが浮かんだ。

由佳が近くにいることに慣れてきたのか、ちびは頭を由佳の手にすり寄せようとしたが、エリザベスカラーに邪魔され、前足でカラーを引っ掻いたが、うまくいかなかった。

その様子に由佳は思わず笑い、ちびの鼻を軽くつついた。ちびは後ろに跳ね返り、口を開けて由佳の人差し指に軽く噛みつき、ちまちまと噛んで遊び始めた。

小さな乳歯ではほとんど力が入らず、ただくすぐったいだけだった。

その時、受付の女性が薬を持って戻り、清次に薬の使い方を説明していた。由佳はちびと遊びながらも、説明をちゃんと聞いていた。

「分かった」清次は薬箱を手に取り、由佳に向かって「行こう」と声をかけた。

由佳は立ち上がり、ちびを防空箱に入れて持ち上げ、動物病院を出た。

車の前で、由佳は清次
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