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奥様が去った後、妊娠報告書を見つけた叶野社長は泣き狂った
奥様が去った後、妊娠報告書を見つけた叶野社長は泣き狂った
著者: 水原信

第 0001 話

スイートルームの中はめちゃくちゃだった。

温井海咲は全身に痛みを感じながら目を覚ました。

眉間をつまんで起き上がろうとしたとき、隣に横たわる背の高い男を見た。

彫りの深い、目鼻立ちのはっきりした顔立ちだった。

まだぐっすり眠っていて、起きる気配はなかった。

海咲が起き上がると、掛け布団が滑り落ち、彼女の白くてセクシーな肩にはいくつかの痕跡があった。

ベッドから立ち上がると、シーツの上に血の跡がくっきりと見えていた。

時間を見ると出勤時間が迫っていたので、彼女は床に乱雑に置かれていたスーツを取って着替えた。

ストッキングはすでに破かれていた。

それを丸めてゴミ箱に捨て、ヒールを履いた。

ノックの音がした。

海咲は身なりを整えて、有能な女秘書の役に戻り、バッグを持って外へ向かった。

入ってきたのは清純な女の子だった。

呼んだのは海咲だった。

叶野州平の好きなタイプだった。

「ベッドに横になって叶野社長が起きるのを待つだけでいい。それ以上何も言わないで」

そう言って、海咲はベッドの上で眠っている男を振り返り、一気にこみ上げてきた悲しみをよそにルームを出ていった。

海咲は、昨日州平とセックスしたことを州平に知られたくなかった。

二人は、結婚を隠して三年経てば離婚できるという取り決めがあった。

しかもその間、一線を越えるようなことは一切許されなかった。

彼女は州平の個人付きの秘書を七年間、そして妻を三年間務めた。

卒業したその日から、彼女は彼のそばを離れなかった。

上司と部下という関係しか築けないと忠告された日でもあった。

その関係は越えてはならないものだった。

海咲は廊下の窓際に立ち、昨日のことを考えていた。彼はベッドで彼女を抱きしめながら、「美音」と叫んだ。

うずくような切なさが胸にあった。

淡路美音は彼の初恋の人だった。

彼は彼女を美音の身代わりとして扱った。

彼女は州平のことよくを知っていた。彼女とのセックスを決して望まなかっただろう。

彼女だけが本気だったこの結婚は、そろそろ終わらせなければならなかった。

昨夜のことは、彼女にとっても彼にとっても、この三年間の終わりにしよう。

スマホを取り出すと、新星歌手の淡路美音が婚約者とともに帰国したという記事の見出しが目に飛び込んできた!

海咲はスマホを強く握りしめ、切ない気持ちが胸いっぱいになった。

なぜ彼が昨夜酔っ払っていたのか、なぜ彼女の腕の中で泣いていたのか、ようやくわかったのだ。

冷たい風に吹かれながら、彼女は苦笑いを浮かべた。スマホをしまい、バッグからタバコを取り出した。

タバコに火をつけ、細長い人差し指と中指で挟むと、煙が立ちのぼり、彼女の寂しげで美しい顔をぼやけさせた。

その時、森有紀が息を切らしながら駆け寄ってきた。「温井さん、叶野社長のスーツが届きました。今、お持ち込みします」

海咲は思いを断ち切って、有紀の方に顔を向けた。

彼女はさっと見回した。「待って」

有紀が足を止めた。「温井さん、他に何かありますか?」

「社長は青系が嫌いだから黒系に変えましょう。ネクタイはストライプ柄がいい、うん、シワにならないようにもう一度アイロンをかけてください。また、社長はビニールの音が嫌いだから、透明の袋に入れず、ハンガーに吊るして送ってください」海咲は州平の専属執事のようなもので、彼のどんな小さな癖も覚えていて、この数年間一度も間違ったことはなかった。

有紀は驚いた。ここに来て三ヶ月、厳しい社長の顔色を伺うだけで十分怖がった。

今日も危うくトラブルに巻き込まれるところだった。

有紀は取り替えを急いだ。「温井さん、ありがとうございます」

突然、スイートルームから唸り声がした。「出て行け!」

すると、女性の悲鳴も聞こえた。

間もなく、ルームのドアが開いた。

有紀は目を真っ赤にしてしょんぼりとした。

彼女は叱れたのだ。

そして今回、叶野社長はかなり不機嫌だった。

有紀は助けを求めるような目を海咲に向けた。「温井さん、社長がお呼びです」

海咲は開け放たれたドアの方を見た。うまく対処できるか心配だった。「先に行って」

灰皿にタバコの吸い殻を捨て、彼女はスイートルームに入った。

ドアの前に立つと、ルームは散らかり放題で、州平の周りにあったものはごたごたと置いてあった。

壊れたテーブルランプと、画面が割れてまだ震えているスマホだった。

彼女が呼んだ女の子は怖くて動けず、裸のままどこに立っていいのかわからなかった。女の子の表情はびくびくしていた。

州平は不機嫌そうにベッドに座っていた。彼の体つきは均整がとれており、長期間の運動で輪郭がはっきりしていた。引き締まった胸と立ったまま腹筋を持ち、外腹斜筋は掛け布団の下に見え隠れしていた。

魅力的に見えたが、ハンサムな顔は暗く沈んでいて、ほとんど怒っているようだった。

海咲は一歩前に進み、テーブルランプを起こし、水を一杯注ぎ、ナイトテーブルの上に置いた。「社長、お目覚めの時間です。九時半から会議です」

州平は冷たい視線で女の子を見つめていた。

まだ信じられないようだった。

海咲はそれを察知し、彼女に言った。「もう帰っていい」

女の子はほっとし、急いで服を手に取り、一歩も留まることなく歩き出した。

こうして落ち着きを取り戻した。

州平は目をそらし、海咲の顔を見た。

海咲は習慣的に彼の手に水を渡し、シャツをベッドの端に置いた。「社長、お着替えをどうぞ」

州平は顔を曇らせ、不快を露わにし、冷たい声で言った。「昨夜はどこに行ったんだ?」

海咲は少し呆然とした。まさか、彼を見守れなかったこと、他の女に乗ずべきチャンスを作ったこと、美音に申し訳ない気持ちになったことを彼女のせいにしたとでもいうのか?

彼女は冷静に言った。「社長は酔っ払っていたし、みんな大人なんだから、あまり気にする必要はありません」

彼女のそっけない表情は、自分が問題を解決してあげるから、他の女にしつこくさせないと言っているようなものだった。

彼はこめかみに青筋を立てて彼女を見つめた。「最後にもう一度聞くけど、昨夜はどこに行ったんだ?」

海咲は少し緊張していた。「最近担当した企画で疲れすぎて、オフィスで眠ってしまったんです」

彼女が言い終わると、州平は鼻でふんと笑った。

彼は冷ややかな表情で、薄い唇をすぼめてベッドから起き上がり、ついでに体にバスタオルを巻きつけた。

海咲は彼の後ろ姿を見ながら、目が潤んできた。

彼は彼女の前ではいつも体を隠していた。まるで彼女に見られるのがどれほど嫌なことかのように。

それは彼女を美音として扱った昨夜とは大違いだった。

気がつくと、州平はすでにシャワーを浴び終えて全身鏡の前に立っていた。

海咲は歩み寄って、いつものようにシャツのボタンを留めた。

彼はとても背が高く、188センチもあった。彼女の身長は168センチだったが、それでもネクタイを結ぶには少し足りなかった。

彼は身をかがめようとせず、冷淡で傲慢な顔をしていた。まるで自分が汚れて美音に申し訳ないことにまだ腹立てているかのようだった。

彼女はつま先立ちで彼の首にネクタイをかけることしかできなかった。

ネクタイを結ぶのに集中していると、州平の温かい息が彼女の耳にかかり、彼の声がかすれていた。「海咲、昨夜の女の子は君だったね」

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