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第157話

「おばあちゃん、人を愛する時って、まるで蛾が炎に飛び込むように、たとえそれが戻れない道だと分かっていても、すべてを投げ出してしまうことがあります。それを危険だとも思わずに。修はきっとそうなんです、桜井雅子を愛しているから、結果を気にしないんだと思います」

この世界には、愛が狂気じみていて、後先を考えない人もいる。

「それじゃあ、もう一つ聞くけど、あなたは本当に修と離婚したいのかい?それとも、桜井雅子がいるから仕方なく修に同意したのか?」

「おばあちゃん、私は本当に修と離婚したいんです。たとえ今、桜井雅子が突然いなくなっても、私は離婚したい。それはもう彼女の問題じゃなくて、修と一緒にいることが、もう私にとって幸せじゃなくなったからです」

おばあちゃんが誤解しないように、若子はさらに説明を続けた。「修が私に酷いことをしているわけじゃありません。私は......私はただ、もう疲れたんです。おばあちゃん、自由になりたいんです。これ以上、男に縛られたくない。これからは、自分の喜びも悲しみも、自分で決めたいんです」

こんなにも多くのことを経験して、彼女は本当に疲れてしまった。

何度も離婚しようと決意したが、そのたびに何かしらの問題が起こり、彼女は一度は「もしかしたら天が離婚を止めているのかもしれない」と思ったこともあった。だが、もうそれを続けることはできなかった。

たとえ桜井雅子が突然姿を消して、修が急に心変わりしたとしても、彼女はもうこれ以上続ける気力はなかった。

石田華も、松本若子が今どれだけの思いを抱えているかを感じ取っていた。

彼女はすでに年老いていたが、かつては自分も若い時があったので、若者の心情は理解できる。

男が一度迷わされると、自分で目を覚ますまで、誰が何を言っても無駄なのだ。

石田華は執事に向かって「執事、持ってきて」と声をかけた。

「かしこまりました」執事はうなずき、すぐにその場を離れた。

しばらくして、彼は手に戸籍謄本を持って戻ってきた。

石田華はそれを受け取り、少し掠れた声で言った。「若子、これを......あなたに渡すよ」

「おばあちゃん......」若子はまさかこんな形で戸籍謄本を手にするとは思ってもいなかった。しかも、それをおばあちゃんが自ら差し出してくれるなんて。

石田華は辛そうな表情を浮かべながら言った。「実はね
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