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第158話

帰りの車の中、松本若子は戸籍謄本を抱きしめながらずっと泣いていた。

運転手はそれを聞いていたが、どうすればいいか分からず、ただ黙っていた。

家に着いた後、若子は修に電話をかけたが、電話に出たのは修ではなく村上允だった。

「村上允?どうしてあなたが?」

「若......若子か」村上允は彼女の声を聞いて、少し慌てた様子で、どこかぎこちない。「俺に何か用か?」

「これは修の携帯電話よ。どうして私があなたにかけたと思ったの?」

若子と村上允はプライベートで連絡を取ることはほとんどなかった。

「ああ、藤沢修のか?」村上允の声は少しぼんやりしていた。

彼は昨夜の酒を飲みすぎて、修の携帯を自分のものだと勘違いしていたのだ。

しばらくして、若子は彼が叫ぶのを聞いた。「藤沢修、お前の奥さんから電話だぞ!」

ドンドンドン!

村上允は勢いよくドアを叩いた。「おい、聞こえてるか?お前の奥さんから電話だって、早く出ろよ!」

「藤沢修、お前、俺の部屋を占領してるだけじゃなくて、中で死んでんのか?早く開けろ!」

若子は電話越しにそのやり取りを聞き、思わず眉をひそめた

。男同士の関係って、こんなに素っ気ないものなのか、と感じつつも、妙に違和感がなかった。

しばらくして、村上允が言った。「あのさ......彼は昨夜飲みすぎて、今俺の部屋にいるんだが、ドアを開けないんだ」

「じゃあ、彼に伝えて。私はもうおばあちゃんから戸籍謄本をもらったから、早く起きて離婚の手続きをしに来てって。午前中には手続きが済むから」

「え、二人とも本当に離婚するのか?」村上允は耳を疑った。長い間離婚の話が続いていて、ただの口約束かと思っていたが、今日は本気で進めるようだ。

「そうよ。だから彼を起こして」

「わかった。やってみる」

「藤沢修!」村上允は大声で叫んだ。「お前の奥さんが戸籍謄本持って家で待ってるぞ!離婚手続きに行くんだ、さっさと起きろ!」

若子はその状況を想像し、何とも言えない複雑な気持ちになったが、同時に、妙に納得していた。

しばらくしても修の反応はなく、村上允は苦笑しながら言った。

「彼、全然反応しない。多分飲みすぎてまだ熟睡してるんだろう。目が覚めたら電話させるよ」

若子はため息をついた。「それじゃあ、お願いね。起きたら必ず伝えて」

「了解、伝えておくよ」

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