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第161話

もし彼女がすべてを知っていたなら、もし彼がずっと桜井雅子と切れていないことを知っていたなら、松本若子は最初から彼と結婚しなかっただろう。

二人はしばらく沈黙に包まれていた。

やがて、若子が再び口を開いた。「戸籍謄本はもう手に入れたわ。村上允から聞いてるでしょ?」

修は「うん」と短く返し、「どうやって手に入れたんだ?」と尋ねた。

「おばあちゃんが私を呼んで、少し話をしたの。彼女、私たちが離婚することを最初から知ってたみたい。あの日、私の誕生日に、夜遅く帰った時に私たちが話していたことを全部聞いてた。それに、桜井雅子が戻ってきたことも知ってる」

修は眉をひそめた。「おばあちゃんの反応はどうだった?」

「何?おばあちゃんが傷つくのが心配なの?」

「おばあちゃんは年を取ってるし、身体もあまり良くないんだ」修は低く言った。

「そう?本当にそんな風に思ってるの?」若子は冷たく笑みを浮かべた。

「どういう意味だ?」修の目には少し怒りが混じっていた。

「別に。もしかして、まだおばあちゃんを恨んでるんじゃないの?私と結婚させられて、桜井雅子と一緒になるのを邪魔されたことを」

彼女には、修が心のどこかでおばあちゃんに不満を抱いているのではないかと思えた。

修は苦笑した。「どうであれ、彼女は俺のおばあちゃんだ」

「そうね、修。彼女はあなたのおばあちゃんよ。だから私がいなくなった後、どうか彼女を大切にして、よく面倒を見てあげて。時々顔を出して、彼女が喜ぶ話でもしてあげて」

若子の声はかすかに詰まり、目には涙の膜が浮かび始めた。

「私たちはもうすぐ離婚する。離婚したら、私はもうあなたの妻でも沈家の若奥様でもなくなる。私がどこに行くかは、もうあなたには関係ないわ」

実際、若子自身も自分がどこへ行くのか分かっていなかった。ただ、どこへ行っても、もうこんな苦しみを味わう必要はないだろうと思っていた。

修は沈黙したまま彼女を見つめ、口を開けたが、結局何も言わなかった。

若子は続けた。「おばあちゃんが自ら戸籍謄本を渡してくれたの。だからもう時間に追われることもなく、こそこそする必要もない。あなたはこの数日間、病院で休んでて」

......

しばらくして、修が口を開いた。「若子、俺、ひとつ質問がある。正直に答えてくれないか」

「何の質問?」

「お前と遠藤西也は
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