共有

第16話

「お前、薬でも飲み間違えたのか?」

裕司が入ってきてからずっと笑顔を浮かべているのを見て、青川は不思議に思った。彼は長年の友人だが、いつも冷静沈着な性格の星野がこんなに嬉しそうにしているのは初めてだった。

裕司は隣のテーブルに寄りかかりながら口元をゆるめて言った。「さっき屋上で女の子に会った」

「は?」

「彼女、俺が盗撮してると思って、スマホを奪って怒鳴りつけてきたんだ」

青川は目を細めて、「なんだよ、それ。まさかお前、その子に気があるのか?」

裕司は笑って答えなかった。

青川の興味はますます膨らんだ。

彼と秀一、裕司の3人は幼馴染だ。小林家の力は少し劣るが星野家と藤井家は江城ではほぼ互角の力を持っている。裕司も秀一と同じく一人っ子で、幼い頃から後継者として厳しく育てられてきた。

しかし数年前に裕司が病気になり、回復に2年以上かかった。その、彼の両親も少し肩の力を抜き、彼に好きなことをさせるようになった。彼の幸せが何より大切だという考え方に変わったのだ。

その結果、裕司は音楽、絵画、スキー、カーレースなど、さまざまな趣味を持つようになったが、なぜか女性にはまったく関心を示さず、私生活もまるで白紙のように綺麗だった。青川は一時裕司の性向を疑ったほどだ。

だから今こうして裕司がある女性に興味を示していると聞き、好奇心を抑えることができなかった。

「その子、可愛かったか?」

裕司は美穂の姿を思い出した。

彼女の長い髪は半乾きで肩にかかり、微かに遠くを見つめていた。薄暗い光の中でも、彼女の白い肌や整った顔立ちははっきりと美しかった。すっぴんでも驚くほどの美貌だった。

だが、スマホを奪い取った時の彼女の表情はもっと生き生きとしていた。

「とても綺麗だったよ」

「名前は?Line交換はしなかったのか?」

「タイミングが悪かった。家族が入院しているみたいで、電話がかかってきてすぐに行っちゃった」

青川は呆れて言った。「それじゃ、話した意味ないじゃん」

話が終わるか終わらないかのうちに、青川のスマホが鳴り、電話に出ると、秀一の冷たい声が聞こえてきた。「死んだのか?」

青川は慣れた調子で答えた。「死んだよ。だから迎えに来てくれ」

「ふざけんな、早く出てこい」

彼らが南山病院を出ると、秀一の車が道路の向かいで待っていた。エンジンはまだかかっ
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status