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第077話

桜庭隆一は強い腕で彼女をしっかりと抱きかかえ、地面に下ろした。口元にはいつものように、いたずらっぽい笑みが浮かんでいた。「クルーズでお前が杉山さんを誘惑しようとしてたとか、俺があの時助けなかったってことで、俺を恨んでるんじゃないか?」と、桜庭隆一は篠崎葵に問いかけた。

篠崎葵は何気なく答えた。「そんなことないです」

彼女は本当に何も恨んでいない。

彼女と桜庭隆一の間には何の因縁もない。

恨む理由もないのだ。篠崎葵はいつも冷静に物事を受け入れる性格だった。

「田舎者が!言っておくけど、お前がその日、金儲けしか頭にないみたいに振る舞い、他人に遊ばせようとしたやり方じゃ、誰も助けられなかったんだ。俺が助けたら、南都中の金持ち連中を敵に回すことになる。俺の従兄、藤島翔太を除いて、誰もお前を助けられないんだ。それに、あれはただの遊びだったんだろ?お前は宮川玲奈と取引して金をもらってたんだから、別に文句言うことじゃないだろう」桜庭隆一は篠崎葵を容赦なく責めた。

篠崎葵は冷静に、平淡な口調で言った。「桜庭さん、本当に恨んでいません」

「じゃあ、なんであんな大きな荷物を引きずって、フラフラと歩き、バスにもまともに乗れないくせに、俺に電話して送ってくれって言わなかったんだ?」桜庭隆一は問い返した。

篠崎葵はは言葉に詰まった。

「俺が言っただろ?何かあったら俺を頼れって」桜庭隆一は強引な口調で命じた。

篠崎葵は頭を下げた。

桜庭隆一の理屈やふざけた言葉に対抗することもできず、彼の言い分に応じるつもりもなかった。彼のふざけた言葉や行動は、ただの遊び半分でしかなかった。

でも、篠崎葵はただ、この男が少なくとも自分を助けてくれたことだけを覚えておけば、それで十分だと思った。

「乗れ!」桜庭隆一は命令するように言った。

「うん」篠崎葵は素直に桜庭隆一の車に乗り込んだ。

車は南部の工事現場に向かって走り出した。道中、桜庭隆一はラジオを大音量でかけ、一曲ごとに狼のような叫び声を上げては、篠崎葵に話しかけることはなかった。しかし、時折バックミラー越しに彼女の顔をちらりと見ていた。

篠崎葵はそのたびに控えめに微笑んで返した。

桜庭隆一も微笑み、心の中で「やっと笑ったな

これが進歩だ

攻め落とせないわけがない」と思って、

桜庭隆は篠崎葵を攻略することに楽しみを見出
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