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第075話

篠崎葵は突然顔を上げて藤島翔太を見つめ、小さな顔が一気に赤くなった。

男は最後の一口の揚げパンを食べ終わると、何も言わずに立ち上がり、そのまま去って行った。

篠崎葵は呆れてしまった。

その後、側にいた谷原剛が突然篠崎葵の前に来て、静かに囁いた。「篠崎さんが恥ずかしがって戸惑っている時が一番綺麗です」

言い終えると、彼もすぐに藤島翔太の後を追って朝食店を出ていった。

篠崎葵は慌ててご飯をかき込み、店を出た。店の外に出ると、藤島翔太の車が見当たらなかった。藤島翔太がすでに帰ったのだと思い、一人で店の前に立ち尽くして、何を考えるか伺えない姿だ。

少し離れたところで、車の中から藤島翔太は篠崎葵を黙々と見つめていた。

彼女が一人で立っている姿は、まるで風に揺れる一片の細い葉のようだった。その表情には頑固さが漂っていたが、それ以上に疎遠なものが感じられた。

それだけでなく、藤島翔太は彼女の姿から孤独と無力感、そして哀れさをも読み取った。

「調べろ、彼女の腹の中にいる子供が誰のものか」藤島翔太が突然谷原剛に命じた。

谷原剛は「え......ええと、どこから手を付ければいいんでしょうか?彼女が自分で言わない限り、誰の子供かなんて......」と言った。

「林家からだ」藤島翔太が言った。「彼女はかつて林家で8年過ごしていた。林家は彼女の過去を知っているはずだ。林家から調べろ」

「かしこまりました、四郎様。それで、林美月さんの方は......」谷原剛は自分でも何を思ってか、つい林美月のことに言及してしまった。

藤島翔太が林美月を全く好いていないことは、谷原剛も知っていた。むしろ彼女のことを嫌っていた。だが、林美月が藤島翔太の命を救ったため、仕方なく彼女を妻として迎えざるを得なかったのだ。

藤島翔太は谷原剛の言葉には答えず、ただ淡々と「出発しろ」と命じた。

谷原剛は内心、ホッと胸を撫で下ろした。

車が走り出す中、谷原剛はバックミラーで店の入り口に立つ少女をちらりと見た。彼女はまだそこに佇んでいた。

谷原剛は心の中で思った。四郎様と渡り合うには、篠崎葵はまだまだ若すぎる。

四郎様が少しでも違った接し方をすれば、彼女はすぐに取り乱してしまう。結局のところ、彼女は二十歳そこそこの小娘に過ぎないのだ。

篠崎葵は朝食店の前に10分ほど立ち尽くし、ようやくバスに
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