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第3話

再び目が覚めたら、私はもう病院にいた。

私の目に映ったのは、隼人の暗い顔だった。

私が目を覚ましたのを見て、隼人はいち早くスマホを私の前まで押し付けた。

私は老眼で、スマホをこんな近くまで持って来られると、逆に何も見えなかった。

目を細くして暫くスマホのスクリーンを見つめた後、私は無力に視線を上に向けて隼人のことを見た。

「よく見えないから、何があったか、教えてくれ」

すると隼人はため息をついた。

「お袋はさ、いい歳して、どうしていつも面倒ばっかりを人にかけるのだ」

「昨日はどうして一人でホテルを出たのだ!土砂降りだったというのに、どうして愛想笑いの一つや二つして、車を乗せてもらったりしないんのだ?」

「人に世話してもらいたくなくとも、俺に電話くらいしろよ」

「なのに、自分だけが可哀想にもったいぶりやがって、親父にとんだ迷惑なんだよ!」

私は隼人の話で訳わからなくなり、頭を左右に振った。

「これは一体どういう意味かしら」

隼人は再びスマホを私の顔面までに押し付けてきた。

「親父と楢崎おばさんはネットで、マスコミにバッシングされているのだ」

「ほら、見ろ。これらの山ほどある記事を。全部お袋だけが一方的に同情され、親父と楢崎おばさんは罵倒されることを旨に書いたのよ」

「親父は大学からも処分を受けるそうになっちゃってる。もうすぐ定年退職できるのよ、なんでこんなタイミングで親父の癪に障ることをしたの」

私は目を細くして、スマホに映った画像を一枚つづめくった。

タイトルの文字が大きいものなら、なんとなく読み取れた。

#六十過ぎの老人はなんと、共に困難を乗り越えてきた妻を裏切った。男というのはやはり死んで遺影一枚となって、壁に飾って初めて大人しくなれるものだ#

#某大学の教授はなんと妻の六十歳の誕生会で、初恋の人にプロポーズ?お年寄りを甘く見てはいけない#

#六十歳の老婆が路頭で倒れた真相。まさかのことに夫とその愛人に手をかけたのだ!#

ホテルで、和樹が片方だけ楢崎のまで跪いた写真、私がケーキナイフを投げた写真、そして私が路頭に倒れた写真まで、バッチリネットなるものにアップされたのだ。

今の時代でいうネットというものが発達しているのを知ってたが、そこまでだとも思わなかった。昨日の夜の出来事が、もう人々に知れ渡っている。

私は顔をあげて隼人を見て、淡々と言った。

「これは全部あの人の自業自得だ」

「自業自得だとは人聞きが悪い。親父はただ老後、再び初恋の人と一緒になろうとしただけで、何が悪い?」

「百歩譲って、仮に悪いことをしたとしても、それはお袋の誕生会でこのことを表沙汰にした程度のことだ」

「親父は今まで、この家のために雨天決行としていろいろ尽くしてきた。そんなお袋はあぐらをかいていただけだろう。お袋も、親とに楢崎おばさんももう歳だ。身をひて、お二人のことを応援してあげたっていいでしょう。それがどうしてこんな真似して、親父のメンツを潰せたのだ?」

私を詰問し続け、偏った尺でこのことを測った息子を見て、私は心臓は悶えた。

全てが和樹のせいだというのに、息子の隼人はなんとあったかもそうでしょうという偽善面で責任を全部私に押し付けた。

これまでの愛情や慈しみが全部無駄だった。今の隼人の目に映っているのは、有能な教授の父親だけで、この生まれ育ちの母親の居場所などないのだ。

私はなんとかして起きて、持つ全ての力を尽くして隼人の頬を引っ叩いた。

「出ていけ。私にあなたのような息子などいない」

隼人は固まって私を見つめた。彼の目に書いてあったからのは「ありえない」という言葉だった。

「お袋が俺を引っ叩くだなんて」

「本当、楢崎おばさんとは比べものにはならない。道理で、親父はこんな歳でお袋と離婚しようとしたのだ」

隼人は憤って、病室のドアを閉じた。私は悲しみのあまりに泣いてしまった。親友に長文を送ったあと、私は点滴の注射針を抜いて、タクシーを拾って家に帰った。

和樹が書斎に隠していた手紙を包に入れて、私はぎこちなく最上階にあった屋上に登った。

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