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第2話

私は山道を沿って街のほうへと歩いた。

雨が止んだのは、その道を半分歩いたところだった。

そして急に、和樹から電話がかかってきた。

私は寒さで全身が震えながら電話に出たら、和樹の怒り極まった声が耳に入り込んだ。

「佐伯文郁、お前は人でなしだ。お前のせいで、理央は心臓発作を引き起こしてる」

「彼女は今病院で、それはも衰弱でたまらない。彼女にもし何かがあったら、絶対許さないから」

スマホを握っていた私の手は、ほんのりと震えていた。どんなに些細なことでも、楢崎のためなら、和樹は何にもかもを捨てられるのだ。

一方で、たとえ私が彼の前で死んだとしても、寝たふりをしているのだと見なされるだろう......

息子の隼人を産んだその年、うちは貧乏だから、ちゃんとした産褥期を過ごしていなかったため、私は低血糖値という病気にかかった。

隼人が三歳だった時、厨房でご飯を作っていた私は、急に目の前が暗くなって厨房の中で倒れた。

まな板の上に置いてあった包丁の位置が悪かったため、ちょうど私の額に当てたので、とんでもない傷口ができてしまったのだ。

血が止まれなく流れていたので、驚かされた隼人はわんわんと泣き出した。

私は精一杯でやっと起き上がり、電話機まで這って、和樹に電話をした。

彼は業をにやした口調で私を叱った。「全く使えないへなちょこだ。どこまでもめんどくさいのだ、自分でなんとかして」と言われた。

その後、和樹の同僚が口を滑らしたお陰で、私は事情を知れた。その日は、楢崎と彼女の旦那がみんなを食事に誘ったそうで、旦那と夫婦ラブラブにしていた楢崎を見て、溜まった不満ややけを晴らす術なく、彼はそれを全部私に当たったのだ。

ここ数年、彼の心はずっと楢崎のところにあった。

以前楢崎の旦那がまだいた頃には、彼は妄想だけを走らせていた。

楢崎の旦那が死んで、隼人は思春期に入った少年となったのは、彼はちょうどキャリアの絶頂期にあった頃だったので、楢崎との関係を公にするのは不都合だったから、隠し通すしかなかった。

今の彼はもうすぐ定年退職するし、息子ももう結婚して妻子持ちになってる。彼にとってもうなんの壁もないから、堂々と楢崎と一緒になれるだろう。

けど、彼は一度たりとも、私の立場になって考えたことがなかった。

彼は最初から、私のことを愛したことがないからだ。私と結婚したのも、楢崎が別の人と結婚したからだ。

スマホの向こうで、和樹はまだ耐えずに不満をこぼし続けていた。

「今すぐ病院に来い。理央が起きたら、すぐ彼女に謝るのだ。さもないと、離婚しても、僕は少しでも金を渡さないから」

私は嘲笑いながらぞっとした。突然、空から落雷がして、私の膝は驚きで笑った。私はそのまま、地に倒れ込んだ。

スマホの中から聞こえてきた和樹の声には、急に緊張が伝わってきた。

「お前、まだ家に帰ってないのか」

「ホテルであれだけの人がいたのに、お前を家まで送ってくれそうな人は一人もないのか」

「佐伯文郁、とっくに言っただろう。人に接するときにはちくりとしたらダメって、普段での人付き合いが悪から、いざという時に、誰も助けてくれないのさ」

「今どこだ?隼人に迎えに行かせるから、でないと......」

スマホの向こうから、急に楢崎の咳が聞こえた。

彼女の衰弱している声が、スマホごしに聞こえた。

「文郁さん、まだホテルから戻ってないのか」

「和樹さん、迎えに行ってあげて。今日は彼女の誕生日よ、あまり悲しませるようことをしては」

和樹はすぐ声を低くして、彼女を慰めた。

「あいつはもう六十だぞ、六歳じゃないんだ。手足も健全だし、自力で帰れる」

「理央こそ、起きたばかりに、そんな心配をしなくてもいい......」

私は軽く咳をして、手をあげて自分の熱くどうしようもない額を触った。指がなんとなくその傷跡に触れた。私は自嘲して、頭を左右に振った。

もう年を認めないといけないのだ。身体能力はかなり退化してきている。ちょっとした雨に降られただけで熱になるもの。

私は口を開けて、声が嗄れていた。

「早いうちに離婚協議書を作成したまえ、長く待たせないように」

和樹の返事を待たずに、私は電話を切った。

電話を切った瞬間、私は突然気を失った。

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