共有

第5話

和樹のほうは少しの緩みも見せなく、弁護士まで私のところに送り込んだ。彼は、全財産の半分と今私たちの住んでいる屋敷だけをくれることを承諾した。それ以外は、一歩も譲らなかった。

私は頭を振って、その離婚協議書を弁護士の方に返した。

「共有財産の何も持たずに家を出るか、地位も名誉も失うか、ご自由に選んでくれとあの人に伝えてください」

話し合いが物別れに終わってから三日後、楢崎が訪ねてきた。

彼女は、自分の恰幅をうまいことにアピールできた黒いドレス姿できた。

どうやってここを知ったのかは分からないが、彼女が客人として来ている以上、私はここの主ではないけど、温かいお茶一杯でもてなしてあげた。

行儀よくお世辞を交わした後、彼女は本題に入った。

「和樹さんは文郁さんのせいで体調を崩しているの」

それを聞いていると、私は目を伏して、手のひらに乗せていた湯呑みを強く握った。そして、私は頭をあげて彼女を見た。

「和樹は体が弱いから、最近気温が下がってきたし、病気なのも無理がない」

「財産の半分をあげても離婚してくれないとは、随分と欲張りだったこと」

私は頷いた。

「私があの人に三十五年間こき使われてきたその間、あなたはあの人に花や蝶やで、大事にしてもらっていた。多めに請求するのも妥当だと思うが、これは精神的苦痛に対する損害賠償だというのだ」

楢崎は私の言い分で、怒りのあまりに笑ってしまった。彼女はバッグから、新しくできた離婚協議書を持ち出した。

「これは私たちのできる最大限の譲りだ。文郁さんと離婚しても、和樹さんには生活がかかってるのよ」

「ことがこうなってる以上、文郁さんと和樹が離婚しなと治らないから、もうこの辺にしましょう」

私は新しいの離婚協議書をめくって、条款に目を通していた。元の条款のほか、養老のためのお金を増やしてくれた。

私は躊躇しながら、楢崎のことを見つめた。このことは確かに大いに世間を騒がせいていた。

私たちももう若くではないので、このことが長引いてしまったら三人仲良く笑い物になるだけだ。

それに、私は和樹という人間の本性をよく知っている。楢崎が、彼のおねだりに耳を傾けていられるのもいまだけだ。

私は目を伏して、離婚協議書の最後のページを指で指しながら言った。

「ここで一つ加わって欲しいのだ。柏原隼人に、私の財産を継承する権利
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status