第2話

彼女はかえって私を別荘内に隠された地下室へ連れて行き、そこにある薬剤を次々と私の体内に注入した。

私が全身で痙攣する様子を見ながら、下江母はいつも興奮して手を叩いていた。

時には私の惨めな姿を写真に撮ることさえあった。

一方、注射器を手にしたままの下江父は、いつも黙ってその様子を見つめていた。

明らかに北川市で最高の地位を持つ富豪でありながら、この瞬間、彼は下江母の前でひどく怯えているようだった。

彼がほんの少しでも注意を怠れば、すぐに下江母の怒りを買うのではないかと恐れているのが見て取れた。

恐らく最大の悪人は下江母なのだろう。

その日、薬の副作用から目が覚めたばかりの私を、下江母は急いで地下室から連れ出し、使用人に洗面と着替えをさせた。

震える体で彼女を直視することができず、使用人たちの目つきもどこか曖昧だった。

「自分の役目をちゃんと果たしなさい。さもないと、貴様らを犬の餌にしてやるからね！」

これは下江母が彼女たちに向けて発した言葉で、今回が初めてではなかった。

何せ、慈善家として名を馳せた下江母の称号も、外の世界だけでしか通じないものだった。

屋敷内の者たちは皆、彼女が悪魔であることを知っていた。

下江母は私の髪を優しく撫でながら、警告するように言った。

「もうすぐ大事なお客さんがうちに来る。どうすればいいか分かっているわよね？」

「でないと、今の罰だけじゃ済ませないからね」

「いい子ね、絵梨。きっと上手くやれるわ」

その声は柔らかかったが、間違いなく脅迫の色があった。

私はその客が相当重要な存在だろうと感じた。

そして、リビングに座っている男性を見た瞬間、全てを悟った。

北川市の新進気鋭のテック界の巨匠、岩川理一郎。誰もが彼と手を組みたがる相手だ。

私は隣に立つ緊張しきった下江母を見て、薄く微笑んだ。

お母さん、ゲームの始まりだ。

4、

「岩川社長、女の子は着飾るのに時間がかかりますから、どうか気になさらないで」

下江母は腰をかがめ、笑顔を浮かべながら言った。

下江父は早くからソファに座り、黙々とお茶を淹れていた。

まるでこの些事には全く興味がないかのようだ。

私はずっと下を向いて何も言わなかったが、理一郎は突然立ち上がり、私の前に来ると、顎を持ち上げてしばらく見つめた後、笑いながら言った。

「下江奥様、絵梨さんには恋人がいるのかな？」

その言葉が出た瞬間、リビング全体が凍りついた。

誰もが彼の突拍子もない行動に驚きを隠せなかったのだ。

私は彼の顔を見つめ、顔が一気に赤くなり、恥ずかしそうに下江母を見上げた。

下江母の顔は陰鬱になったが、それでも笑みを保ち続けた。

「岩川社長、冗談はおやめください。絵梨は今年ようやく成人したばかりですわ」

理一郎の視線はさらに鋭くなり、彼は笑いながら続けた。

「成人しているならいいじゃないか。そうだね、数日間絵梨を私に付き合わせてくれないか？そうすれば、君の会社のプロジェクトには私が投資するよ」

彼がそう言い終わると、それまで黙っていた下江父が急に立ち上がり、厳しい口調で言った。

「ダメだ！」

皆が一斉に彼に視線を向けると、彼は咳払いをしてから言い直した。

「絵梨はやっとの思いで見つけた娘だ。彼女を取引の道具にする気はない」

その言葉が終わると、下江母の表情はさらに暗くなり、笑みを浮かべながら私の手を引っ張り、下江父を鋭く睨みつけた。

そして私の手を理一郎の大きな手のひらに押し付け、へつらいながら言った。

「ちょうど良い機会ですわ。最近、絵梨は気分が悪いですから、外に出て気分転換するのもいいでしょう」

私は心の中で緊張が走り、振り返って下江母に哀願の眼差しを送った。

彼女がその言葉を撤回してくれることを期待したが、彼女は私の手を乱暴に振り払った。

「絵梨、岩川さんと一緒にお出かけしなさい。言うことを聞かない子には、お仕置きよ」

こうして私は理一郎と一緒に別荘を後にした。

別荘を出た瞬間、屋内からは下江父と下江母の口論が聞こえ、最後には物が割れる音が響き渡った。

私は隣で笑みを浮かべ続ける理一郎を見つめ、目を細めながら言った。

「これがあんたが考えた会わせる方法？古臭いよ」

私の皮肉に気づいた理一郎は、鼻をつまんで苦笑しながら、集めた資料を私の手に渡した。

「ここに書かれているのは、近年下江家が見つけた娘たちのリストだ。君で10人目になる」