第3話

唐沢桜子が家を出て十日が経ったが、唐沢家の人々は彼女を探そうともしなかった。

唐沢家の人々にとって、唐沢桜子は家族の恥であり、星野市での笑い者であった。唐沢桜子がいなければ、唐沢家の事業は間違いなくさらに発展すると信じていた。

唐沢桜子が美貌を取り戻した後、江本辰也と共に婚姻届を出し、その後、家に戻った。

唐沢健介には三人の息子がいた。

長男の唐沢翔、次男の唐沢真、三男の唐沢武である。

唐沢桜子の存在が原因で、唐沢武は唐沢家で冷遇されていた。彼がどれだけ慎重に仕事をこなし、唐沢家の発展に多大な貢献をしても、唐沢家内での地位は低く、発言権は皆無であった。

唐沢武は唐沢グループのマネージャーではあったが、唐沢グループの株を持っておらず、毎月の給料だけで生活しており、配当金は一切なかった。そのため、彼の家は常に経済的に苦しかった。

彼は家を買ったが、毎月のローン返済が必要だ。

「辰也、ここが私の家よ」

唐沢桜子は辰也を連れて家に帰り、閉じたままのドアを指さして言った。「あなたが住んでいるお城には及ばないけど」

辰也は彼女の手を握りしめ、笑顔で言った。「君がいるなら、どこでも家さ」

その言葉に唐沢桜子の心は温かくなり、彼女はドアの前に立ち、そっとノックした。

すぐにドアが開き、中から唐沢桜子の母親である唐沢梅が顔を出した。

彼女はドアの前に立つ美しい女性と見知らぬ男性を見て、一瞬驚き、尋ねた。「あなた方はどなたですか？」

「お母さん」唐沢桜子が呼びかけた。

その一言で、唐沢梅は驚いて、目の前の美しくセクシーな女性を見たが、すぐには理解できなかった。

「お母さん、私よ、桜子、唐沢桜子だよ」

「え？」

唐沢梅は驚きでいっぱいになり、目の前の美しい女性を見て困惑し、「あなたが、桜子なの？」と問い返した。

「そうよ、お母さん。私は元気になったの。傷跡が消えたのよ」

「お母さん」辰也も続けて声をかけた。

「あなたは？」唐沢梅は再び驚いた。

唐沢桜子は辰也の手を引きながら言った。「お母さん、この人はおじいちゃんが選んだ孫婿よ」

唐沢梅はやっと理解し、すぐに唐沢桜子を引っ張り、冷たい声で言った。「私はこんな婿を認めた覚えはないわ」

その後、彼女は唐沢桜子の白い頬に触れ、「桜子、本当にあなたなの？……顔の傷も体の傷も、どうしたの？」と問いただした。

「お母さん、この十日間、私は治療を受けていたの。今はすっかり良くなったわ。もうお母さんに恥をかかせることはないわ」唐沢桜子は涙ぐみながら答えた。

事件が起こってから、唐沢桜子は唐沢家の顔を潰し、唐沢家を星野市での笑い者にし、両親を外で面目を保てない状態にしてしまった。

「桜子……」唐沢梅も唐沢桜子を抱きしめながら涙を流し、「桜子、母が悪かったわ。以前、あなたを冷遇してしまい、辛い思いをさせてしまった。申し訳なかったわ。さあ、家の中に入って座って」

彼女は唐沢桜子を家の中に引っ張り込んだ。

娘が容貌を取り戻したことで、唐沢梅は別の考えを持つようになった。

今の娘の美貌なら、裕福な人や名門に嫁ぐことができるはずで、お金や名誉を求めて入婿になった男と結婚する必要はないと思った。

彼女は横に座っている辰也を冷ややかに見つめ、部屋のドアを指さして言った。「出て行きなさい」

「お母さん、何をするんですか？これは私の夫で、おじいちゃんが選んだ婿なんです」

「行くわ。唐沢家の別荘に行き、おじいちゃんにこの結婚を取り消すようにお願いするわ」

唐沢梅は唐沢桜子を引っ張って出て行こうとした。

「辰也……」

唐沢桜子は振り返り、諦めた表情を浮かべた。

辰也は肩をすくめ、無関心な表情で二人の後ろについていった。

唐沢家の別荘のリビングでは、唐沢梅の隣に立つ美しい女性を見て、唐沢家の人々は驚きの表情を浮かべていた。

これが唐沢桜子？

これが十年間も顔が崩れていた唐沢桜子？

どうして、たった十日でこんなにも変わったのか？

「桜子、お前なのか？」

「桜子、本当にお前なのか？韓国で整形したのか？今の整形技術はそんなに進んでいるのか？」

唐沢家の人々は信じられない様子で、目の前の美しい女性が全身傷だらけだった唐沢桜子であることが信じられなかった。

まるで霊薬を飲んだかのようだ。

唐沢梅は直接的に言った。「お父さん、この結婚には反対よ。今の桜子の美しさなら、名門に嫁ぐことができるのに、どうしてこんな入婿と結婚させるの？」

ソファに座って煙を吸っている唐沢健介は、唐沢桜子をじっと見つめた。

彼は何が起こったのか分からなかった。

なぜ、わずか十日で全身が崩れていた唐沢桜子が元通りになったのか。

しかし、今の唐沢桜子は確かに美しい。彼は軽く頷き、「うん、確かに理にかなっているな。今や星野市の各一族の中で未婚者も多い。関係を使って連絡を取り、良い家柄を探してみよう」

「私は反対よ」

唐沢桜子は立ち上がり、涙を浮かべて言った。「おじいちゃん、あなたが私を辰也に嫁がせると決めたんでしょう？辰也が私を治してくれたのに、どうして今になって反対するんですか？私を何だと思っていますか？」

「このバカ娘、何を言っているの？」唐沢梅は手を振り上げ、唐沢桜子の顔にビンタをした。「こんな貧乏な男と一緒にいることに何の価値があるの？」

唐沢桜子は打たれた顔を手で押さえ、テーブルの上にあった果物ナイフを手に取り、自分の顔に当てた。「もうこれ以上迫るなら、自分で顔を壊すわ」

「お前......」唐沢梅は怒りで体を震わせた。

「もういい」唐沢健介が怒鳴りつけ、「なんて体たらくだ。唐沢桜子、お前のためを思って言っているんだ。今のお前の容姿なら、名門に嫁ぐのも問題ないだろう。裕福な生活を過ごすのが悪いか？わざわざ貧乏人にこだわる必要はないだろう？」と叱りつけた。

その時、今まで黙っていた江本辰也が前に出て、唐沢家の人々を見回して淡々と話し始めた。「俺が唐沢家の婿に入ることにこだわっているわけじゃない。でも、これは俺と桜子の問題だ。俺たちはもう婚姻届を出した。彼女が離婚に同意するなら、俺は何も言わないが、彼女が同意しないなら、誰も彼女を無理やりにすることはできない」

「坊や、お前が口を挟む場じゃないだろう？」

唐沢家の長孫、唐沢修司が立ち上がり、江本辰也の鼻先に指を突きつけて罵った。「お前はただの婿養子で、唐沢家では発言権なんてない。唐沢家がお前に出て行けと言えば、黙って出て行くんだ」

江本辰也は手を伸ばし、唐沢修司が指を突きつけている手を曲げ、冷淡に言った。「俺に指図する奴は今までいなかった」

「痛っ！」

唐沢修司は叫び声を上げ、体をよじりながら苦痛の表情を浮かべ、「俺、俺が悪かった、早く、早く手を離してくれ」と懇願した。

江本辰也は彼を放した。

唐沢修司は息を荒げ、冷たい表情を浮かべた江本辰也を見つめながら、怒りを抱き、テーブルの上の灰皿を手に取って江本辰也の頭に叩きつけようとした。

「何をしているんだ？」唐沢健介が叱りつけ、「ルールも忘れたのか、放せ」

唐沢修司は唐沢健介を見て、泣きそうな顔で言った。「おじいちゃん、この男はひどすぎる。俺にどうかしてやってくれ」

「もういい」唐沢健介は煙管を吸いながら手を振り、目の前の江本辰也に目を向けて、「お前に1000万円やるから、桜子と離婚しろ。それで桜子とお前は一切関係なくなる」と言った。

「いやだ！」唐沢桜子は叫んだ。

「反抗するな」唐沢健介は机を叩き、「俺はまだ死んでいない。唐沢家の主は俺だ。唐沢家のことは俺が決める」

江本辰也は、唐沢桜子が唐沢家と仲違いするのを見たくなかった。

彼が今回戻ってきたのは、恩返しと復讐のためだった。

彼は自分の恩返しのせいで、桜子が家族と対立するのを望んでいなかった。

「おじいさん、どうか俺にチャンスをください。俺、江本辰也が誰にも劣らないことを証明させてください」

「チャンスだって？」唐沢修司は冷笑した。「江本辰也、資料によれば、お前は孤児で、孤児院で育ち、兵役に就いていただけだ。今の桜子にお前はふさわしくない。チャンスが欲しいなら、明和株式を知っているか？我が唐沢家はずっと明和株式との協力を望んでいるが、なかなか繋がりが持てない。お前が明和株式と唐沢家の提携を実現させることができれば、唐沢家の婿として認めてやってもいい」

唐沢修司は江本辰也を気に入らず、退役して戻ってきた兵士のくせに、お金も権力もないくせに何を偉そうにしているのかと思っていた。

彼は江本辰也を退けるための難題を考え、江本辰也に自ら諦めさせるつもりだった。

彼の心にはすでに適切な妹婿がいた。それは白石家の白石翔太、四大一族の頂点に立つ白石家の人だ。

「おじいちゃん、江本辰也に明和株式からの注文を取らせてください。もし取れたら認めますが、取れなかったら追い出してください」

唐沢健介は煙管を吸いながら、「うん、いいだろう。我が唐沢家は主に薬の加工をしている。最近、明和株式は生産を拡大しており、多くの注文を放出している。数多くの企業が明和の注文を争っているんだ。お前が明和から6億円の注文を取ってくることができれば、お前を唐沢家の婿として認めてやろう。期限は10日だ…」

「10日もいらない。明日には注文を持ってくる」と言って、江本辰也は唐沢桜子を引っ張ってその場を立ち去った。

「この男、なんて大口を叩くんだ。明和は製薬会社のトップで、時価総額は兆円規模だ。明和株式から注文を取るなんて、まるで夢物語だな」唐沢修司は鼻で笑った。

唐沢梅は祈るように言った。「お父さん、心を鬼にしなきゃだめよ。6億円の注文なんてなんだっていうの？今の桜子の美貌なら、四大一族に嫁げるはずよ」

唐沢健介は煙管を振りながら、「あまり急かすな。明和の注文はすべて四大一族が握っている。そう簡単に取れるもんじゃない。この坊やが諦めるのを待ってから、改めて桜子を名門に嫁がせる手立てを考えよう。四大一族と縁組みできれば、我が唐沢家は星野市で急速に台頭できる」と話した。