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第55話

午後2時、真弓が金子と一緒に北城の郊外の離れた撮影現場に行った。

古代劇のため、現場では古代の建築が建てられた。

スタッフの案内で、雄一を見つけた。

雄一はカメラの前に座って指導していた。

真弓を見て、礼儀的に頭を下げて、続けて仕事に専念した。

真弓は邪魔せず、近くに座ってカメラを見つめた。

この時、礼子とヒーローのシーンだった。

役者がスタンバイしていた。

「三番目のシーン、一回目ショット、スタート!」

礼子はヒーローに強く壁ドンされて、距離の近い二人がお互い見つめた。

真弓は撮影現場に始めて見学したので、役者が素早くキャラになり切るのを見て、少し感心した。

特に礼子の演技、抑えた気持ちを目で徹底的に表した。

次の瞬間。

ヒーローの俊介が礼子の唇に近づいた。

礼子が嫌い目つきで睨みつけ、暫くして黙認したように目を閉じた。

涙が目じりから流れて来た。

唇にぶつかった途端に、礼子が頭を向けて避けた。

二人の役者もキャラから外れた。

「カット」

雄一が呼び止めた。

「ごめんなさい」礼子が涙を拭きながらスタッフに向けてお詫びをした。

このシーンはキスする予定だった。

彼女のNGだった。

「少し休憩して」雄一が言った。「次のシーンを撮影しよう」

礼子は直接スタジオから出て来た。

助手が前に出て、水を渡して心配そうに聞いた。「礼子さん、どうしたのですか?」

「何でもない、ただ調子外れだった」礼子が回答した。「馴染まない二人がいきなりキスシーンを取るのはきつすぎるじゃないですか。礼子さん、リンダさんに監督と交渉して、キスシーンを少しあと伸ばしてもらいましょうか」

「いや」礼子さんが言った。

主人公に早くキャラになり切ってもらうため、キスシーンを早めに設定されるのが普通だった。

彼女もよく分かっていた。これは馴染んでないことと何の関係もなかった。

彼女の心理的な問題だった。

「休憩室に戻って休みましょう」

礼子が頷いた。

向きを変えて離れようとした時に、少し馴染みのある人に気づいた。

彼女は目が動いた。「鈴木真弓?」

「初めまして礼子さん」真弓は率先して手を伸ばして言った。「画面よりきれいですわ」

「真弓さんは役者にならなくてもったいないですよ」礼子が素直に言った。真弓はとてもきれいだと心から感心した。

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