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第54話

そう言えば、彼なら、紹介するどころか、無料でタレントの契約を取れる。

「私にしてみれば、井上監督が最適の人選だと思います。」まゆみが確信して言った。

雄一が断らなかった。「彼女の撮影のスケジュールを確認してから、また連絡させて頂きます。」

「有難うございます」

「どう致しまして」

電話を切って、カメラの前に座った雄一が、丁度一つのシーンが終わり、休憩するところだった。

「礼子の最近の撮影スケジュール表を取ってくれ」雄一が近くの助手に言った。

「分かりました」

スケジュールを真面目に見てから、雄一が立ち上がり、スタジオの隅に向かった。

電話が通じた。「達也」

「うん」

「真弓から電話があった」雄一がぶっきらぼうに言った。

「......」向こうが暫く沈黙していた。

雄一が軽く微笑んだ。「礼子を紹介して、タレントの話をしたいと」

「そうか?」

「約束したが、意外がなければ今夜にすると思う」

撮影が始まったばかりで、時間的に余裕があった。

「彼女のことをよく知っているね」達也の声は冷たくて、歯を食いしばったようだった。

「いや、普通の知り合いだ」雄一が笑った。「教えただけで、仕事に戻るね」

電話が切られた。

雄一がまた笑った。予想通りケチだった。

携帯を収まって戻ろうとして、振り返って、礼子を見かけた。

微笑んだ雄一を見て、礼子が無表情のまま通り過ぎて行こうとした。

「礼子」雄一に呼び止められた。

礼子が立ち止まった。

「午後に二つのシーンがあって、大体4時ごろに終わる」

「それで?」礼子が淡々と聞いた。

「タレントの打ち合わせをしたい友人がいて、時間があれば夕食を一緒に......」

「千尋と食事の約束をした」礼子がぶっきらぼうに断った。「タレントの話なら、直接エージェントと話をすればいい。エージェントの番号を知っているか?教えようか?」

「お兄さんの友達だ」雄一が直接言った。「鈴木真弓」

礼子が唖然とした。

昨夜の祝宴で、彼女は隅に隠して、お爺さん、両親そして兄さん達のようにお客さんを接待しなかった。兄さんと真弓のやり取りを見ていた。兄さんは海外では長かったが、彼の私生活についてよく分かっていた。傍には女がいなかった。ただ......でも、あの女は兄さんと長年離れたので、一緒になる確率は低いと思った。

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