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第48話

「遅れてごめん」達也の低い声が優しくて、申し訳ない気持ちがあった。

真弓は首を横に振った。

「丁度いい」と言った。

すべてが丁度良かった。

達也の心はわずかに動き、真弓の涙が流れた顔を見て、彼の目差しがさらに優しくなった。

骨節がはっきりした指で彼女の頬を撫でて、涙を優しく拭った。

真弓の体がわずかに震えた。

彼女は目を開けて、達也と目を合わせた。

分からぬ感情がゆっくりと芽生えたようだった......

達也は身を乗り出して真弓に近づいた。

真弓の目はまだまっすぐに達也を見つめていた。

大人同士の感情はとても脱線しやすかった......

達也の唇が真弓の柔らかく潤い唇に近く途端。

真弓は頭を向けた。

達也の唇は彼女の頬に付けた。

達也の目がわずかに動き、間近で真弓を見つめた。

「ごめんなさい」真弓が断った。

達也が喉を詰まらせた。ゆっくりと背筋を伸ばして座って言った。「唐突で済まなかった」

真弓の心が微かに揺れた。

二人の間ではそんな間柄になってなかった。達也が怒った気配はなかったが、真弓は少しやましく思った。

誰かの期待に背いたような気がした。

達也が立ち上がって離れようとした。

「誰かと親しくなるのがきらいだ」真弓が突然説明した。

達也が唖然として、静かに彼女を見つめた。

真弓が言い続けた。「18歳のとき、私が酔っ払って薬を飲まされ、その後、見知らぬ男と寝た。その夜の記憶は非常にぼやけて、目覚めたら、頭が真っ白で、きもかった」

達也が唇をすぼめた。

「その後、男となら誰でも、親しくなると心理的にも肉体的にも具合が悪くなり、本能的に排斥してしまう」真弓が達也をみて言った。「樋口さんだけではない」

話が終わった。

真弓が突然ベッドから起き上がり、そして地面に降りて、素早くバスルームに駆けこんだ。

急いだので、バスルームのドアをさりげなく閉めたが、少し隙間があった。

その後、中から心臓が張り裂けるような嘔吐の音が聞こえてきた。

嘔吐の音が次々とトイレから伝わって来た。

達也がバスルームの方向を見て、顔色が......言えなかった。

どれくらい時間が経ったのか分からなかった。

バスルームの音が小さくなった。

達也がバスルームに入って、便座の傍に跪いた真弓を見つめた。

真弓が黄色い
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