中川師長から聞いた話もまだ半信半疑、白川先生や七海先生の気持ちもよくわからないままで私は数日を過ごした。今夜は、歩夢君が企画してくれた親睦会の日。日頃あまり話せない看護師の仲間達と親睦を深める会を開きたいと提案し、こうして素敵なお店を予約してくれた歩夢君には本当に頭が下がる。激務の合間、入れ替わりで集まれるメンバーだけにはなるけれど、せっかくの機会なのでみんなで楽しみたいと思っている。「珍しいわね。春香さんが来てる」「ほんと。こういう場所、苦手なんだと思ってたのに」そんな声が耳に届く。そう、嬉しいことに今日は春香さんが来てくれている。相当頑張って歩夢君が声をかけてくれたに違いない。きっと春香さんは、他の誰からの誘いも受けないだろうから。「皆さん、ドリンク注文しますから言って下さい」早速、歩夢君が先頭に立って会を仕切ってくれている。こういうところを中川師長も嬉しい反面、心配もしているのだろう。それでも、とても楽しそうな歩夢君の笑顔に、私まで幸せな気持ちになった。「藍花ちゃん、この前あなたのことを『可愛い』って言ってる患者さんがいたわよ」「えっ」先輩看護師がみんなの前で言った言葉は、私を赤面させた。「うんうん。確かに藍花ちゃんって可愛いしスタイルいいし、雑誌のモデルさんみたいだよね」「や、やめて下さい。そんなことないですから」「藍花ちゃん、そんなに可愛いんだから彼氏いるんでしょ?」その質問の最後に被せて、歩夢君がグラスを倒した。「あっ!すみません!」慌ててみんなでテーブルを拭く。「どうしたのよ、歩夢君。いきなりグラスを倒すなんて」「す、すみません。ちょっと手が当たって」苦笑いしながらテーブルを拭き続ける歩夢君は、ほんの少し動揺しているように見えた。「それにしても春香さん、今日はよくきたわね。病院では行かないって断ってた気がしたから」会話の内容が私から春香さんに変わってホッとした。女性の会話はコロコロと変化する。どんどん枝分かれし、気づいたら元々何について話していたかなんてすっかり忘れてしまう。
Last Updated : 2025-03-13 Read more