【高見陽介】 帰国子女らしいって話。 何か国語だ? ぺらっぺらで。 取ってくる契約は桁違いの大口だったり、それでいて会話もスマートで偉ぶらない。ビジュアルも完璧、男の俺から見たら怪物みたいな存在の上司。まだ若いからって課長職に甘んじていたけど、将来約束された本物のエリートだった。 普段なら争う対象でもなく、同期じゃなくて良かったと思うくらいだ。仕事でなんか敵うわけもねーから成績を比べたことすらなかったけど。「ごめんね、陽ちゃん。私、真田さんに着いて行きたいの」独立した鉄人上司に、彼女を取られた。 この時ばかりは、流石に腸煮えくり返ったとも。「おい陽介……もう帰ろうって」 同僚に自棄酒に付き合わせて、半分は酔ったフリの蛇行歩きだ。浩平がさりげなくタクシー乗り場に誘導していることに、気付かないわけがない。「嫌だ! 俺はまだまだ飲むぞまだ日付変わったばっかだろ!」 「日付変わったから帰ろうっつってんだろうがしばくぞこら」 あー、明日の朝、酒抜けねえかも。 残った理性がそう冷静に判断するけど、入社した頃から二年付き合った彼女を掻っ攫われた心の痛手は、酒で誤魔化そうとする程度には、ダメージはでかかった。 秋を迎えて夜は少々肌寒い。酒効果で妙にチカチカする視界で空に浮かぶ月を見ると、尚更感傷に浸りたくなる。 ってか、翔子。 お前結構いい女だったけど、所詮一般の部類だ。 あれはさすがに格が違いすぎるって。 雲の上の存在過ぎてまさかのノーマークだったわ。 そのうちポイっと捨てられるに決まってる。 本気で心配したけれど、それは言わなかった。 余りにも惨めだろ。 可哀想だろ、俺が。 「唯一勝てそうなのって背の高さしかねぇな……」 「あー、人混みでも難なく見つけられる立派な長所だ誇りに思え」 夜風同様、浩平の態度が冷たい。愚痴を垂れ流し過ぎたのか、受け流しもぞんざいになってきた。これ以上面倒がられないようにそろそろ帰るか、とさっき通り過ぎたタクシー乗り場を振り返ろうとしたが、浩平の言葉に引き留められた。「そうだ。そんなに飲みたきゃ、いいとこ連れてってやる」 何かを思いついたようにそう言って、突然すぐ傍の角で左に曲がる。「なんだよいいとこって」 風俗とか言うなよ。 俺は今は女より酒が欲しい。「ショットバーだよ」
Last Updated : 2025-02-10 Read more