――――――――――――――――――――――――――――グラスを一つ一つ磨いては、棚に並べる。傍らでは佑さんが水を出しっぱなしにしながら流し台を洗っている。「佑さんこまめに水止めなよ」「お? ああ、悪い」あの二人が結構長く飲んでいったけど、やはり予想通り今日はあまり客は入らなかった。余りよろしくない数字だ。黙々とグラスを磨いていると、流し台を洗い終えたのかダスターで周辺を拭きながら佑さんがぼそりと言った。「気にしてんのか、浩平に言われたこと」「……別に」「嘘つけー」「……うるさい」陽介さんが機嫌を直した後(彼から見れば、機嫌を直したのは僕の方だと言うだろうが)気が抜けたのかお手洗いで席を立った時だった。浩平さんは、このために今日店に来たんだろう。彼と少し話をした。「陽介は、馬鹿だけどめちゃくちゃいい奴です」突然、僅かな時間も惜しむように切り出されたのは、陽介さんが戻るまでに言いたいことを言ってしまいたかったのだろう。「そうですね。それはよく、わかります」「応えるつもりもないなら、さっさと振ってやってください」「僕は、ちゃんと断ってるつもりですが」それでもお構いなしに纏わりついて来るのが、彼であって。浩平さんの主張は、少々お門違いではないだろうかと鼻白む。「慎さんと知り合ってから、あいつ急に付き合いも悪くなったんです。仲間内の飲み会にも来なくなって」「……そうなんですか」まるでとぼけたような相槌になってしまったが、思えば確かにそうだろう。彼は週末の殆ど、それだけでなく平日でもちょくちょくこの店に顔を出していて、仕事と睡眠以外のかなりの時間をここで費やしているようには感じていた。ともすれば、睡眠の時間さえ。番犬扱いで佑さんが多少まけてはいるものの、彼の懐具合が心配にもなってきているところだった。それだけでなく……身体の方も。「俺は友達だし、慎さんが心配するような変な噂たてたりなんかしませんけど」「……」「けど、男相手の恋愛なんて賛成できません。慎さん、ゲイってわけじゃないんでしょう。さっさと次へ行けるように、引導渡してやってください」今日会ってから、少しも好意的な空気を見せなかった彼だが、その時だけはきっちりと頭を下げて見せた。真剣なその様子に、僕は何も言い返すことができなかった。話していて、よく伝
Last Updated : 2025-04-07 Read more