美香は奈津美と涼が早く仲直りすることを切望していた。結局、奈津美が黒川家に嫁げば、母子にとっても好都合だった。美香の焦る様子を見て、奈津美は片眉を上げて微笑んだ。「そうですね」「本当?それは良かった!」美香は声を弾ませた。「やっぱり黒川様はまだ奈津美のことを気にかけているのよ。でなければ、わざわざ会いに来るはずないもの」「お母さん、違います」奈津美は言った。「涼さんが会いに来たのは、婚約破棄の件を話すためです」「それは......」美香の不安げな眼差しを受けながら、奈津美はゆっくりと言葉を紡いだ。「婚約は、もう破棄しました」「まさか!婚約を破棄ですって?!」美香はその言葉を聞いて、その場で気を失いそうになった。健一は急いで美香を支えながら、奈津美に怒鳴った。「何てことするんだ!家族に相談もなく勝手な真似を!俺たちのことなど眼中にないということか!」「私の結婚は私が決めます。あなたたちに相談する必要などありません。今日から会社の経営を引き継ぎます。お母さん、黒川グループの撤退については、もうご心配には及びません」奈津美の声には微かな笑みが滲んでいた。美香は怒りで言葉を失った。この娘は......一体何があったというの!滝川グループのオフィスで、奈津美の初来社が瞬く間に話題となっていた。普段、奈津美は会社に顔を見せることもなく、いつも美香が田中部長に一任していた。田中部長は慌てて奈津美の前に駆け寄って言った。「お嬢様、わざわざご足労いただかなくても。何かございましたら、お電話一本いただければ」「田中部長?」「はい!お嬢様、今日は何かご用件でしょうか?」奈津美は目の前の田中部長を観察した。整った風貌で、四十路を前にしながらも身なりは小奇麗だ。ただ、その笑みには俗物的な打算が垣間見えた。前世では、滝川グループを美香母子に任せた結果、3年も経たないうちに会社は破産した。その時、美香は田中部長と共に会社の資金を持ち逃げしたはずだ。二人の関係が只ならぬものだったことは明白だった。「最近の会計帳簿と報告書を拝見させていただけますか」「それは......お嬢様には少々難しいかと。ご不明な点がございましたら、私が直接ご説明させていただきます」
Last Updated : 2024-12-13 Read more