しおりは、廊下で一人孤独に座っていた。看護師が彼女に救急処置が終わったことを伝えた時、ようやく現実に引き戻された。颯太はまたしても死の淵から引き返してきたが、医者はしおりに心の準備をするように告げた。彼の各種数値は全て臨界点にあり、いつその時が来てもおかしくないと......しおりは医者にお辞儀をして感謝を述べ、病室に戻った。弟の手を揉みながら、看護師に向かって言う。「看護師さん、休んでください。少し彼と二人きりでいたいんです」看護師は彼女が強がり、人前で弱さを見せたくないことを知っていた。「隣の休憩室にいるから、何かあったら呼んでね」と声をかけ、部屋を出て行った。颯太の両脚は膝から切断され、太腿の筋肉はほとんど萎縮していた。脚は腕よりも細くなってしまっていた。彼のことを誰よりも理解しているのはしおりだ。彼は痛みと闘いながらも、常に前向きで明るかった。障害者バスケットボールチームに参加してからも、積極的にトレーニングを行い、日常生活を楽しんでいた。たった一度の試合の敗北で、自ら命を絶つような選択をするはずがない。だからこそ、彼女は颯太が目を覚まし、自分にその日何が起こったのかを直接話してくれることを望んでいた。彼の両腕を揉み終えた頃には、しおりの手は震えていた。看護師が彼の身体を拭くために戻ってきたので、彼女はテラスへ出て、智里からの電話を受けた。「邪魔してないかな......」「ううん、大丈夫、今病院にいるの」としおりは答え、濡れた髪をほどいて自然乾燥させながら話した。「颯太くんは......」「救命処置は成功したわ」「そうか、医学は日々進歩してるし、いつか目を覚ますかもしれないよ」と智里は彼女を慰めた後、本題に入った。「実は、また遠藤先生から連絡してきたんだ。しおりが前に修復した刺繍ドレスをとても気に入ってね、チームに参加してほしいって」遠藤先生は補修の世界で名を馳せた名人で、彼と一度でも協力すれば、その価値は飛躍的に高まる。彼がしおりを直接誘うのは、彼女の技術に対する大きな評価の証だった。しおりの技術は業界でも一流だが、賢也との結婚後、家庭に専念するために簡単な仕事しか引き受けていなかった。しかし、今は状況が変わり、彼女は離婚後も弟の治療水準を維持するために稼ぐ必要があった。「参加するわ」「え
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